『最強のふたり』の監督が苦笑「映画の大ヒットで、嘘つきスピード違反が出現」
『最強のふたり』(9月1日公開)は、そのタイトル通り、生まれも育ちも違うふたりの男の名コンビを描く快作だ。パラグライダーの事故で首から下が麻痺してしまった富豪の男と、ひょんなことから彼の介護人として雇われた刑務所上がりの黒人青年。価値観も何もかも全く異なる世界で生きてきたふたりの人生が交わることで、豊かな友情が生まれていく本作は、実話ベースの物語なのだ。本作のメガホンを取ったエリック・トレダノ監督が来日し、興味深い撮影秘話を語ってくれた。
映画化のきっかけは、この“最強のふたり”を追ったドキュメンタリーだった。エリック・トレダノ監督は、共同監督を務めたオリヴィエ・ナカシュ監督と共に感銘を受け、脚本を手掛けていったという。「この話は、感動とユーモアの絶妙なバランスが良かった。本来なら出会うことのなかった対極にいたふたりが、絆を深めていくという点に惹かれたよ」。
富豪のフィリップ役に、ベテラン俳優フランソワ・クリュゼ、青年ドリス役には本作でブレイクしたオマール・シーが扮する。映画で用いた一番好きな実話のエピソードは、フィリップを車に乗せたドリスが、警察とカーチェイスを繰り広げるシーンだと話してくれた。しかし、実はそのことで困ったことが起きたらしい。「ドリスが車で時速180kmを出し、警察官に捕まった時、フィリップが具合の悪いふりをして見逃してもらうんです。あれは、彼らが実際にやっていたことですが、映画が大ヒットしたことにより、フランスでその真似をしてスピード違反をする若者が出てきてしまって(笑)。そしたら、警察官が『僕らもあの映画を見ているから騙せないよ』って言ったそうです」。
そう、本作はフランス本国で3人に1人は見たというメガヒット作だ。日本では2011年に開催された第24回東京国際映画祭で東京サクラグランプリと最優秀男優賞をダブル受賞しているし、各国の映画祭でも数多くの賞を獲得してきた。監督は「ここまで成功できたことは自分でもびっくりしたけど、誇りに思っているよ。自分が感動して、話したかったものを映画化し、皆さんに感動してもらえたことがすごく嬉しい」と笑顔で語ってくれた。
監督が一番伝えたかったのは、ハンディキャップを乗り越えるという素晴らしさについてだ。「フィリップとドリス、ふたりは身体的ハンディキャップと、社会的ハンディキャップをそれぞれに抱える人間なんだ。そんなふたりが、一緒にいることでより強くなれた。ふたりがお互いに救われたことがとても面白くて、そこを描きたかったんだ」。
監督は最後に、こんなメッセージもくれた。「フランソワ・トリュフォーが『人生とは、あなたが思うよりも、もっとイマジネーションにあふれている』と語っている。絶対に合わないとか、絶対に無理!と思ってしまいがちな人間どうしでも、実は一緒に過ごしてみると意気投合したり、救い合えたりすることがある。やっぱり偏見を持つことはいけないし、常にオープンな精神を持ちましょうってことを言いたかったんだ。そのことを、シリアスにではなく、コメディタッチに伝えられたことも良かったと思う」。
エリック・トレダノ監督の言う通り、全く違う価値観を持つからこそ、“最強のふたり”に成り得たのだ。見終わった後、誰の心にも爽やかな風が通り過ぎる快作をお見逃しなく!【取材・文/山崎伸子】