北野武と加瀬亮が明かす『アウトレイジ ビヨンド』下克上の裏側!ポイントはのし上がり方
北野武監督がヤクザ社会の熾烈な下克上を描く『アウトレイジ ビヨンド』が、いよいよ10月6日(土)より公開される。“極悪非道=アウトレイジ”な男たちの欲にまみれた思惑、怒号、罵声が飛び交う中、巻き起こる血みどろのバイオレンス。そして見事なまでに絡み合う、笑い。全編に北野節が炸裂する痛快なエンタテインメント作品に仕上がった。前作の“生き残り”に加えて、新たに登場するメンバーには、日本を代表する豪華俳優がそろった。監督を直撃すると、「西田(敏行)さんもそうだけど、今回ね、『出してくれ!』って言ってきてくれた役者さんがいたんだよね。高橋(克典)君なんかも、セリフがない役しかなかったんだけど、『それでも良い!』って」と嬉しそうな笑顔を浮かべた。
スクリーンの端から端まで、個性的な役者が顔を並べるが、その中で“生き残り”であるインテリヤクザの石原役を熱演するのが加瀬亮だ。監督によって、新たな一面を引き出された彼は、北野映画の魅力をこう語る。「最初に監督の作品を見たのは『ソナチネ』(93)だったんですけど、見たことのない世界観に衝撃を受けて。起こっていることは激しいのに、静なる世界というか。独特でオリジナルの世界。現場に行っても、監督の頭の中にあるイメージは、僕からするととても独特なんです。台本を読んで想像するよりも、現場に行って受け取れるものが遥かに多いので、いつも現場に行っては驚いている感じでした」。
新鮮な驚きに満ちた現場を作り上げる北野監督だが、今回試みた新たなチャレンジとは?監督は「自分の映画って、わりかし長回しが多かったんだよね。引きで撮って、ポツンと立っている役者さんの後ろ姿で、見ている人は色々な感情が沸くはずだと思っていた」と述懐。続けて、「でも、どうも最近、テレビを見ていると、お笑いにまで吹き出しテロップが出て、すごい丁寧なんだよね(笑)。いつも見ているテレビでもそうなんだから、たまにしか見ない映画で、後ろ姿だけを見て、何かを感じろっていうのは無理だと思ってね。もう全部にセリフをつけたの。だから、ものすごいセリフの量が増えちゃって。カット割りも増えるから、一気に進むジェットコースターみたいにしちゃったんだ。これは、自分の映画作りにおいての手法としてはすごい新しいと思う」。本シリーズの最大の魅力は、監督のこのサービス精神だろう。観客がどうすれば最も楽しめるか。その一点に集中しているのだ。
そして「関西弁と東京弁の、言葉の罵り合いも暴力描写のひとつだと思う」と、見どころを教えてくれた。加瀬も「あのシーン、本当に面白かったですね」と付け足す。続けて監督は、「『指つめろ!コノヤロウ!』なんて言い合うのも、すごく暴力的だよね。でも、この暴力描写って、人間社会だからバイオレンスに見えるけど、シマウマやキリンやライオンに置き換えてみたら、これほど素晴らしい自然描写はないかもしんないよ。“全員悪人”じゃなくて、“みんな自然に生きている”ってね(笑)。生きるために必死になって、邪魔者は排除しようとするなんて、動物に置き換えたらこんなに偉い人たちはいないよ」と微笑んだ。
前作で下克上を制して、トップに上り詰めたのが、三浦友和演じる山王会会長・加藤だ。加瀬扮する石原は、加藤の右腕としてNo.2の座を手に入れた。監督は「役者さんの写真を並べて構図を作っていったんだけれども、一つの盤として構図を考えているから、話が複雑に絡み合っても面白いと思う。役割分担が上手くいっているなあってね。この構図を見ると、どこの国でも会社でもありえると思うよ。一般の会社に当てはめてみると意外と当たってたりさ。新進の課長がガンガン上がってきちゃうと、古参は『あいつ、ヨイショで上がっただけじゃねえか』って思ったりするでしょ?」と語る。
加瀬もうなずきながら、「自分が演じる石原は、前作のように誰かをずっと疑いの目で見ている感じではないんです。加藤会長に忠誠を誓って、その役割を必死に果たそうとしているんですが、その器じゃなかったのか、そこまでの力がなかったのか、思うようにいかない。その苛立ちと、監督演じる大友が出所してきてからは、後ろめたさと不安が混ざり合って、石原は自己崩壊していくんです(笑)。でも、前作のラストシーンを撮った時に、何か変な不安があったんです。嫌な予感というか(笑)」。
その予感は見事に的中する。前作で蛇のようにしたたかで、ギラギラとしていた石原は、今回、不安を抱えてキャンキャンと子犬のように吠えまくる。監督は、石原の行動をこう分析する。「石原っていうのは、人を裏切って、金で上にのし上がって、今の地位を手にしたからね。そうすると、自分の若い衆に対しても疑いを持っちゃうじゃない?自分の上がり方というか、バックボーンとして、どう生きてきたかが、その人の不安材料になるんじゃないかな。自分と同じような奴が出てきたら、裏切られるんじゃないか、って思ったりね。自分でも、自分が弱いっていうのをわかっているもんだから、怖い顔をしてみたり、何かと言えば周りの奴をぶん殴ってみたりね。虚勢を張って上がってきたから、常におびえちゃうっていうところもあるだろうね」。のし上がり方に男の生き様が映し出されるというわけだ。鬼気迫る石原の表情に、是非とも注目してほしい。
監督は「タイトルは『アウトレイジ48』にしようって言ったんだよ」と笑う。少年のように、もの作りを楽しんでいることが嬉しいほどに伝わってくる。その姿に加瀬をはじめ、豪華役者陣も惹かれているに違いない。誰が今度はのし上がるのか?誰が一番悪いのか?暴力と笑い、迫力と色気、見ごたえたっぷりの北野ワールドをとくとご覧あれ!【取材・文/成田おり枝】