『くろねこルーシー』主演の塚地武雅、「人生の転機はダウンタウンと2冊の手帳」

インタビュー

『くろねこルーシー』主演の塚地武雅、「人生の転機はダウンタウンと2冊の手帳」

人気お笑いコンビ、ドランクドラゴンの塚地武雅が単独初主演を務める映画『くろねこルーシー』が完成(10月6日公開)。『間宮兄弟』(06)、『ハンサム・スーツ』(08)など、不器用ながらも人間臭く、スクリーンを温かさで満たす。そんな俳優、塚地にとって、本作の主人公・鴨志田役は、まさに当たり役。塚地を直撃すると、「鴨志田の駄目さとか、自信のなさ、でも譲れない部分をしっかりと持っている感じとか、脚本を読んでいて、共感の嵐だったんですよ!」と興奮気味に語ってくれた。

日本一、黒猫に横切られる男の姿を描いて人気となった山本耕史主演のドラマ「くろねこルーシー」の劇場版となる本作。ドラマ版では既に亡くなっていた主人公の父親に焦点を当て、彼の足跡をたどっていく。塚地は「毎週、ドラマを見ていても、自分の息子役である山本君が『お父さん』って語りかけるのを聞いていると、自分に言われている気がして涙が止まらなかったんですよ。こんなことは初めてですね」と述懐する。

それだけ、鴨志田と一心同体になり、彼の生き方、考え方に心を寄り添わせることができたと続ける。「実際に鴨志田がいたら、超友達になっていると思いますね。『わかる、わかる!』って話しているやろうな。自分のまんまで演じています」。鴨志田は、妻や子供を大事に思っているものの、不器用な性格ゆえに、うまく人と接することができない占い師。特に安めぐみ演じる、しっかり者の妻からの言葉も胸に刺さるものが多かったという。「奥さんは、愛情ゆえに鴨志田を突き放して、放ったらかしにしているところがあって、その距離感みたいなものは、鴨志田にとってありがたいんでしょうね。でも、奥さんが『いつまで続けるの?占い』っていうセリフ、あったでしょう?あれ、めっちゃ怖いです(笑)!奥さんの言っていることは全部図星やから、もうぐうの音も出ない。勘弁願いたいですね(笑)」。

では、自身としては、どんな言葉をかけてもらいたいのだろう?「やっぱりね、優しく『絶対売れるよ、面白いよ!』とか言ってほしいですね。鴨志田は占いで生きていきたいと思っているし、僕なんかもね、この世界に入った時に、ちゃんと仕事をしている人に対して劣等感しかなかったんですよ。根拠のない自信や、『こうなりたい!』っていう夢があることだけが、自分の強みであり、救い。その根拠のない自信を応援してくれる方が僕は頑張れる。『いつまで続けるの?』って言われて、鴨志田が『なんで辞める前提なの?』って思うのは、ものすごくわかりますね」。

キャラを立たすことができず、人気の出ない占い師の鴨志田。ある日、黒猫との出会いをきっかけに、事態は好転し始める。気ままに動き回るキュートな黒猫たちの名演も見ものだ。「僕はもともと犬派やと思ってたんです。でも、すっかり猫の気まぐれな感じにやられましたね。触ろうと思うと、ササーッと離れて行ってしまって、『ああ、懐いてくれてへんな』と思って、時間が経つと、いつの間にか膝の横にいるとか。魔性の女ですよ(笑)。今回の黒猫たちは、めちゃくちゃ演技派でしたね。ボストンバッグに入れて運ぶ時も、2匹が顔をちょこんと出してくれるのが理想なんですけど、リハーサルではなかなかうまくいかなくて。それが本番となると、ササッと顔を出して!マジか!?って。CGかと誤解するようなシーンがたくさんあると思いますよ」。

心に残るセリフがあるという。「『人間って、きっかけ次第なんだな』って鴨志田が言うセリフ。脚本を読んだ時から、『ほんまにそうやな』って思いました。僕、ダウンタウンさんが大好きで、昔、ラジオ番組にハガキを送ったんです。何かのコーナーでそれが読まれて、『これ、おもろいな』って言ってもらったのが、すごい大きなきっかけになっていて。でも、大学を出てから、親に『お笑いをやりたい』って言えなくて、普通に就職したんです。会社員になると、手帳を持つじゃないですか?本来、仕事のスケジュールを書くものに、僕はネタやギャグを書き続けていたんですね。そしたら、自分でも気付かないうちに、その手帳が2冊になっていた(笑)。デスクにその2冊が並んでいるのを見て、『ああ、俺、やっぱりお笑いをやりたいんや』って思った。夢、憧れで消えていくと思っていたんですが、その時、『やろう!』って決めたんです」。

きっかけ次第で、新たな一歩を踏み出すこともできる。自分に正直であろうとする塚地と鴨志田の姿に励まされる思いがした。最後に、迷信をつぶやく鴨志田にちなんで、信じている迷信を聞いてみた。「迷信じゃないですが、僕の人生は『好きこそものの上手なれ』ですね。僕を動かしているのは、『好き』という思いだけですから」と笑顔を見せた。情熱で邁進する彼の優しさや温かさが、スクリーンいっぱいに広がる本作。是非、劇場で楽しんでほしい。【取材・文/成田おり枝】

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