中山美穂が「今までとは全然違った」と語る北川悦吏子×岩井俊二の現場
中山美穂が、『サヨナライツカ』(10)以来、2年ぶりに出演したのは、パリを舞台にしたラブストーリー『新しい靴を買わなくちゃ』(10月6日公開)。プロデューサーが岩井俊二で、人気脚本家・北川悦吏子が脚本だけでなく監督も務め、坂本龍一が音楽を手掛けたという贅沢な作品だ。来日した中山に、北川組のエピソードを聞いた。
中山が演じるのは、パリ在住のヒロイン、アオイ役。アオイが、パリで旅行中の年下青年セン(向井理)と恋に落ちる。きっかけは、旧知である北川とのメール交換だった。「ある日、北川さんから、『パリを舞台に美穂ちゃんで何か撮りたいというイメージが湧いてきた』と言われて。軽い気持ちで良いですねって言ったのが始まりでした」。
プロデューサーで撮影監督も務めた岩井俊二とは、『Love Letter』(95)以来の顔合わせとなった。「脚本をみんなで囲んで、それを見つめながらディスカッションしたりしていたので、岩井さんともお久しぶりですって感じはなかったです。ただ、岩井さんが、メガホンを取ってないことが何となく不思議でした」。
岩井については、「全然印象が変わってなかったです」と話す。「いつも会っていたような感じになってしまうというか、現場ってそもそもそういう雰囲気があるんです。現場に入れば、そこだけの軸があって、特別な空間になる。私自身、久しぶりに仕事をしても、現場に入ると、いつもそこにいたんだという気持ちになれるんです」。
北川監督の現場はどうだったのか?「実際、演出とかってものは全くなくて、現場に入ったら、いきなり本番が始まってしまうような感じで。ただ、脚本自体が、演出も含めて、そこで完結している気がしました。今まで私が経験してきた現場とは何もかもが違っていました。スタッフが最小限で、ドキュメンタリー風に撮っていく。決まりごとがないわりには、セリフは一語一句、正確にということでした。自分のダイアローグをすごく大事にしてほしいという気持ちが北川さんにあったみたいです。アドリブは一切なし。それだけが私へのリクエストでした」。
中山自身が醸し出す空気感が、そのままパリの風景に溶け込んでいるように思われるヒロインのアオイ。彼女はどんなふうに役にアプローチしていったのか?「アオイは抱えきれないくらい大きな悲しみを持っていて、そこから動けなくなってしまっていた。でも、誰もがある程度、年を重ねていけば、悲しいことって経験していくと思うんです。そういう時に誰かが現れ、背中をポンって押してくれたから、歩き出せるってこともありますよね。歩き出すのは自分の力だけど、このポンが必要なんです。女性なら、そこで恋みたいなものが生まれたら最高ですよね」。
パリで繰り広げられる、たった3日間の恋。でも、アオイとセンにとっては、人生においてとびきりの時間となったのではないか。「夢のような展開かもしれない。でも、夢を見たいから、こういう映画が存在するんじゃないかって思うんです」という中山の言葉に大いにうなずいてしまう。本作は、全ての女性に捧げたい、極上のラブストーリーだ。【取材・文/山崎伸子】