あまりのモテモテぶりに驚愕!?身長1mのピアニストが送った数奇な人生とは?
ドキュメンタリーで映し出される人物のドラマには、普通の劇映画で描かれる登場人物よりも心を揺さぶられることがある。それは壮絶な運命を乗り越え、力強く生きる姿が虚構ではなく、現実のものであるからだろう。そんなドキュメンタリーのなかでも、一風変わったアプローチで新鮮な驚きを与えてくれる作品がある。ジャズファンには説明の必要もないフランスの天才ピアニスト、ミシェル・ペトルチアーニの生涯に迫った『情熱のピアニズム』(10月13日公開)だ。
1962年、ペトルチアーニは骨形成不全症という遺伝的障害によって全身の骨が折れた状態で生まれ、幼少時は歩行することもできずに、成人後も身長1mしかなかった。だが、ずば抜けた音楽的才能によって13歳でプロデビューを飾り、18歳で渡米。ヨーロッパ出身ピアニストとして初めて、名門ブルーノート・レコードと契約を交わし、世界中に才能を知らしめる。そして、1999年に36歳の若さでこの世を去ってしまう。ここまでの紹介だけだと“ハンディキャップを乗り越えた偉人もの”と認識してしまう人がいるかもしれない。しかし、本作はそんなありきたりな視点だけでは語りきれない面白さに満ちているのだ。
まず、彼の音楽的評価が“障害を持ったピアニスト”であることを前提にしたものではないという点。驚くほど力強く、高速のタッチの演奏は、途方もない生のエネルギーに満ちており、そのサウンドを耳にした者なら、彼が何者であるか知らずとも魅了されてしまうだろう。そして、ビッグマウスな発言を繰り返し、酒を飲み、ドラッグに手を出し、3度も結婚を繰り返した超モテモテな彼の私生活が、生々しく映し出される。劇中、元妻や元恋人など、5人の女性たちが登場し、ペトルチアーニのプレイボーイぶりについて率直な言葉で言及するのだが、次から次へと恋に落ち、女性問題に悩まされる、あまりにも破天荒な姿を見て、彼が高潔な天才として描かれていないことに気付くだろう。本作が、やんちゃだけど憎めない、彼の生身の人間としての魅力をそのままに伝えようとしているところに好感を抱くことができる。
もちろん、ペトルチアーニの演奏風景や、そうそうたるアーティストたちの証言などの貴重な映像も満載で、彼の音楽も存分に堪能できる。『イル・ポスティーノ』(94)などの劇映画を手がけたマイケル・ラドフォード監督が迫った、ドラマ以上にドラマティックな男の人生。彼のファンはもちろん、音楽、映画好きを問わず、普段はドキュメンタリーを見ない人にもお勧めしたい一作だ。【トライワークス】