野村萬斎、『のぼうの城』は朝ドラ「あぐり」以来、楽しく遊べた

インタビュー

野村萬斎、『のぼうの城』は朝ドラ「あぐり」以来、楽しく遊べた

狂言界のスーパースター・野村萬斎が、『陰陽師II』(03)以来、8年の沈黙を破った映画主演作『のぼうの城』(11月2日公開)。熱い視線を浴びる、映画スターとしての野村萬斎にインタビュー。彼が演じたのは、民衆から“のぼう様(でくのぼう)”と慕われる総大将・成田長親役だが、オファーをもらった時、「そんなにぼーっとしてるように見えるのかしら?って思ったけど、周りの人からぴったりじゃない!って言われてショックでした(笑)。でも、今までやったことのない役だったので、やってみたいと思ったんです」と語ってくれた。

和田竜が自身のオリジナル脚本「忍ぶの城」を基に書いた歴史小説を、『眉山 びざん』(07)の犬童一心と、『日本沈没』(06)の樋口真嗣のW監督で映画化した本作。のぼう様が城主の忍城が、軍勢わずか500人で、石田三成率いる2万の大軍を抑えようとする。彼が演じた、飄々としていて、どこかとぼけたようなのぼう様がとても魅力的だ。役作りについては、両監督から「常に浮いていてほしい」というリクエストが入った。

「とにかく周りから浮こうと心がけました。周りが鼻息の荒いキャラクターの人たちが多かったので、あまり鼻息が聞こえないような演じ方をしました(笑)。リズムや声のトーンを変えて、のぼうがいることで、何かが変わるようにしたいなと。退屈な時代劇って、やっぱりみんなが硬いんです。そこで道化的にちょっと変わった奴が入ると、スパイスになると思いました。皆さんが個性的な侍を演じてくださったので、僕は馴染まず浮いている、浮遊感が大事だと思いました」。

久保田修プロデューサーからも、どこか浮いてる感じを受けると言われたそうだ。「昔から目立ちたいと思うところがあったんじゃないですかね。中学生の時、朝礼台みたいなところで、女子生徒がみんな見ているなかで、10分劇場とか、変なことばかりやってました」。

9年ぶりの映画の現場だったが、彼にとっては「水を得た魚のようでした」と振り返る。「楽しく泳がせていただきました。監督が喜んでくれると、なおさら有頂天になっていくところがあるので、踊らされていたのかもしれない。その場の空気で、もっとやっても良さそうだと思えば、ウヒヒヒと急に笑ったりして。かなりやりたい放題させていただきました」。

長親役を演じて、「自分が喜劇役者で、狂言師で良かったなと思いました。そう思ったのは『あぐり』をやって以来かな」と、1997年のNHK朝の連続テレビ小説「あぐり」の望月エイスケ役を引き合いに出した萬斎。「あの時も、とにかく現場でいろいろなアイデアを出しました。監督が僕のやることを喜んでくれたし、台本に書かれていないことをやると、『どうしてこのシーンがこうなったの?』とプロデューサーに聞かれたりしました。今回も同じようなことを言われました」。

演じた長親と、狂言界での自分との共通点も語ってくれた。「狂言界では浮いていちゃいけないと思っています。でも、実は本質的なことを考えているという意味では長親と一緒。狂言のことを考えつつ、それを現代に生かすためにはどうしたら良いかってことをね。そういう意味では、だんだん長親が自分に思えてきます。もちろん新鮮さや、興味を持たせる演出を加えることはあっても、狂言として見せられなければ本末転倒です。そういう意味で、本質は絶対に外したくない。狂言師としては王道にいるつもりですが、一期一会の古典芸能の世界にいると、時には永久に残る映像にも出てみたいと、ないものねだりのように思い、こういう映画に出たりするんです」。

『のぼうの城』では、狂言界に生きる野村萬斎ならではの魅力が大いに引き出された感がある。驚天動地の戦いや水攻めのダイナミックなシーンも良いが、のぼう様たち個性あふれるキャラクターたちの人間ドラマとしても存分に堪能したい。【取材・文/山崎伸子】

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