『映画と恋とウディ・アレン』ロバート・B・ウィード監督「ウディに許可してもらうのが一番難しかった」
監督、脚本家、俳優など、様々な顔を持ち、監督作ではコミカルな人間ドラマを得意とし、世界中から高い評価を受けるウディ・アレン。1960年代以降、ほぼ一年に一本のペースで作品を世に送り出している彼の知られざる創作過程や、彼の作品の常連俳優などの証言から、そのキャリアを年代順に追っていく初のドキュメンタリー『映画と恋とウディ・アレン』が11月10日(土)より公開される。本作の監督を務めたのはエミー賞受賞歴を持つ実力派のロバート・B・ウィード。今回、監督に話を聞いて、本作、そしてウディ・アレンの魅力を語ってもらった。
――映画の中で一人のコメンテーターが指摘していましたが、ウディ・アレンには様々な顔があり、どの彼について語るかを決めるのはとても難しいと思います。あなたにとってもそれは困難な挑戦でしたか?
「確かにその通りだった。ウディは異なるアートの分野で活躍していて、そのどれもが、他のアーティストが一生かかってやっと成し遂げるようなものだ。スタンダップコメディ、戯曲家、ミュージシャン、そして監督。映画に使うのにとても贅沢な素材であると共に、大いなるチャレジでもあった。43年で43本の映画を作った彼のキャリアを2時間でまとめなくてはいけないのだから。僕のドキュメンタリー作りの基本は、できる限りの素材を集め、編集の段階でどんなストーリーを語るかを考える。ただし、今回絶対に入れたいと思っていた要素が3つあった。1つは彼のキャリア全体について。10代の頃、新聞にジョークについてのコラムを書き始め、それからスタンダップコメディを書くようになって、映画の脚本を書くに至ったこと。そのフィルモグラフィはコメディからシリアスなドラマまで、バラエティあふれる。さらに、これだけ長きにわたって活躍しているのは驚くべきことで、それを僕は語りたいと思った。もう1つは、彼のクリエイティブプロセスについて。いかに彼がアイデアを見つけ、それを脚本にするか。撮影現場で俳優に接する監督としての彼の顔や、編集をしている時の彼はどんな様子か。それにまた彼のプライベートな面についても触れたかった。こうした3つの案は当初から持っていたけれど、それをどう料理するかは編集の段階で決めた。だから完成までに3年かかったよ」
――貴重なインタビューや資料映像がたくさん使われていますが、もっとも難しかったことは何ですか?
「ウディ自身に、彼に関するドキュメンタリーを作ることを許可してもらうことだ。でも、それは中身やクリエイティブなコントロールに関することが問題ではなかった。彼は自分がドキュメンタリーに値するほど興味深い人間とは思っていなかったんだ。自分がイングマール・ベルイマン、フェデリコ・フェリーニ、ヴィットリオ・デ・シーカ、ジャン・ルノワール、オーソン・ウェルズみたいに偉大な監督じゃないと思っていたから、その自分についてのドキュメンタリーを撮るなんて馬鹿げていると思った。いったい誰がお金を出して、誰が見たがるのか、とね。それで僕は、現実はあなたの考えとは違いますよ、と説得した(笑)。一度納得したら、彼はとても協力的だった。僕が出したリクエストや質問を彼が拒否したことは一度もなかったよ」
――彼の家族に取材するのも容易でしたか?
「誰もがみんな協力を惜しまなかったよ。彼の妹さんは今、プロデューサーで、素晴らしいインタビュー素材を与えてくれた。お母さんはもう亡くなってしまったが、1986年にウディ自身が撮ったフッテージを使わせてもらうことができた。とにかく出演してくれた多くの人がとても協力的だった」
――ウディ・アレンの作品の中で、あなたがもっとも個人的に思い入れのある作品は何ですか?
「好きな作品はたくさんあるけれど、『アニー・ホール』(77)が一番だね。高校時代に見たし、当時、僕の彼女はダイアン・キートンみたいで、僕自身もちょっとウディみたいだった(笑)。たぶん、ふたりで10回以上この映画を見ていると思う。ウディの素晴らしいところは、43年で43本の映画を作り、4本に1本は傑作があること。これほどの傑作を作れる監督はそうはいないはずだよ」
本作『映画と恋とウディ・アレン』は、ウディ・アレンのファンのみならず、映画を愛する全ての方に贈る“生ける伝説”たるウディ・アレンの映画と恋と人生が詰まったドキュメンタリーに仕上がった。同じく巨匠と呼ばれるマーティン・スコセッシ監督も「芸術的な方向へ進む道をウディ・アレンは選んだ。安全だと感じる場所に普通は残るものだ。自分の得意なジャンルを離れるのは難しい。だが彼は上を目指し『インテリア』を作った」と語るなど、多くの監督や俳優たちが彼を賞賛している。本作の後には『恋のロンドン狂騒曲』の日本公開を12月1日(土)に控えており、ウディ・アレンの魅力に触れるまたとない機会、是非とも劇場で見たいただきたい。【Movie Walker】