シェイクスピア舞台を演じるのは終身刑などで収監された本物の重犯罪者
「ブルータス、お前もか」の名セリフがあまりにも有名なシェイクスピアの悲劇「ジュリアス・シーザー」。この言わずと知れた演劇の古典を、刑務所に服役する囚人たちが演じる様子をとらえたドキュメンタリーが『塀の中のジュリアス・シーザー』(1月26日公開)だ。
本作の舞台となっているのは、イタリアのローマ郊外にあるレビッビア刑務所。ここでは囚人たちによる演劇実習を定期的に行っており、その成果を一般の観客たちに公開しているという。配役を決めるオーディションから、劇を演じ終えた囚人たちが監房へ戻って行くまでの一部始終を収めた本作は、次第に役と同化していく囚人の様子に、思わず目が釘付けとなってしまうだろう。
囚人たちが演じていると言ったものの、登場する囚人たちの罪状は生半可なものではない。殺人や麻薬売買といった重犯罪を犯した者ばかりなのだ。そんな終身刑や重い懲役を科せられた囚人の他、なかには同刑務所を出所後に俳優として活躍し、特別に今回の演目に参加している者もいるという。「ジュリアス・シーザー」といえば、陰謀や暗殺といった重いモチーフを扱った悲劇だが、それを実際の囚人が演じることによって、セリフに何重もの意味が加わり、私たちの胸をより強く打つのだ。
第62回ベルリン国際映画祭では、最優秀賞である金熊賞を受賞している本作。一つ、一つのセリフがこれほど重くリアルに響く演劇は決して多くないだろう。本作は秀逸な刑務所ドキュメンタリーであると同時に、シェイクスピア悲劇に新たな光を当てた作品とも言えるかもしれない。【トライワークス】
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