『砂漠でサーモン・フィッシング』ラッセ・ハルストレム監督「ユアンとエミリーがこの映画を支えている」
ポール・トーディの映像化困難と言われるベストセラー小説を映画化した『砂漠でサーモン・フィッシング』(12月8日公開)。砂漠の国で鮭釣りがしたいという大富豪の願いが、やがて様々な人を巻き込んでの国家プロジェクトへと発展していく。本作でメガホンを取ったのは『親愛なるきみへ』(10)などの。人間ドラマに定評のある監督に話を聞いた。
――まずは本当に楽しい素敵な作品をありがとうございます。非常に文学的で映像化困難な原作ですが、監督はその脚本を見て名乗りを上げたそうですね。原作の魅力と、脚本のどこに惹かれて監督しようと思ったのでしょう?
「まずは、この脚本は可笑しかったんだ(笑)。イギリス的にね。僕はコメディに関して、自分のスタイルやトーンを持った題材をすごく見つけたいと思っていた。イギリスのコメディやテレビを見て育ったから、この作品のトーンはとても魅力的だったんだ。実際、こういった東と西がお互いに平和な形で結びつくというユートピア的なドリームがあることも魅力的だった。それと砂漠に川を作るという、とても変わったアイデアの中で、このふたりが恋に落ち、それがとてもリアルに感じられることも良かったよ。彼らのやり取りや会話はとても本物らしく思えた。だからある意味、ジャンル的にハイブリッドだったんだ。この映画にはジャンルのレーベルをはっきりつけることができない。その点も気に入った。クロスオーバーな映画が好きなんだ。映画というのは必ずしも一つのジャンルである必要はないからね」
――最初に脚本を読んだそうですが、原作は意図的に読まなかったのでしょうか?
「なぜ読まなかったのかはわからない。僕が作品に関わったのは遅かったんだ。小説では、Eメールを通してストーリーが語られるのは知っていた。僕は脚本があまりに大好きだったから、それを台無しにしたくなかったんだ。小説ととても大きな変更が幾つかあったのは知っていた。僕はライターのサイモン・ボーファイの大ファンなんだ」
――本作はハートウォーミングな人間ドラマの中にロマンスやコメディがちりばめられています。監督が本作を作り上げるうえで最も注意した点はどこでしょう?
「ユアン・マクレガー、エミリー・ブラントというふたりの素晴らしい役者が出てくれて、彼らが意気投合していたから、間違いなくふたりの間には良い相性が感じられた。彼らの演技のスタイルはとても良い組み合わせだったよ。ふたりには同じユーモアの感覚と感性があった。ふたりを見ているのは大好きだった。僕にとって、彼らの関係と演技がストーリーの核だった。彼らが本当に映画を支えていると思う」
――キャスティングについて聞かせてください
「僕が作品に関わった時は、ユアンとエミリーは既にキャストされていたんだ。僕はかなり後でこの作品に関わることになったからね。もう一人の監督が映画の準備をしていて、エミリーとユアンをキャストしていた。でも僕は、このプロジェクトを彼らふたりと共に喜んで引き継いだよ。ビル・コンドンが監督する予定だったけど、彼は『トワイライト』の最後の2本を監督することになって、この作品から離れたんだ。でも、僕はクリスティン・スコット・トーマスのキャスティングに関わったよ。同じく素晴らしい仕事をしたアマール・ワケドもね。彼には役に合ったルックスがあった。素晴らしい役者だよ。彼はロンドンのオーディションにやって来た。彼にはアラブのシークが持っているであろうと想像できる、どこかマジカルな美しさがあったんだ」
――ロンドン、スコットランド、モロッコでロケを行っていますが、撮影で一番苦労した点や興味深いエピソードを聞かせてください
「苦労した点は、たとえばこういった魚をどうやって本物のように描くかということだった(笑)。デジタルのトリックを使ってね。それと洪水を作り出すのもかなり大変だった。本当のセットが2度流されて、2度作り直さないといけなかった。だから、自然の力が撮影を遅らせ、妨害したんだ。それが最もチャレンジングな部分だった。それとトーンを作り出す手助けをすることだね。実に多くの違った側面やトーンがあるストーリーを語らないといけないわけだからね。一つのまとまったものにするのは、かなり大変だったよ。編集にとても長い時間をかけて、映画の流れを良くしていった。脚本にあった幾つかの滑稽な要素は、映画のトーンにあまり合わなかった。それでその幾つかは外さないといけなかったんだ。編集でそれらをまとめていくのは、かなりの作業だったよ」
――ユアンやエミリーと、彼らのキャラクターについてどんなことを話し合ったんですか?
「ほとんどは何が最も重要かとか、どんなトーンでストーリーを語るか、といったことだった。もっと漫画的なキャラクターにするか、それとももっとリアルで、現実に根づいたものにするかといったことだね。幾つか違う考えがあったよ。一つは脚本家のサイモン・ボーファイで、彼はあまり撮影現場にはいなかったけど、多分、もっと幅広い観客向けのものを推していた。彼はどちらかというと、もっとイギリス的なコメディを想像していたんだ。もう少し一般向けの。でも、僕には幾つか違うトーンをミックスする考えがあった。ロマンスはリアルにやって、他の部分ではもっとコメディに寄ったものにするというものを考えていた。それに、トーンを色々と実験してみたんだ。だから、重要となるもの、ストーリーのトーンについて話し合ったよ。ユアンのキャラクターをどのぐらいリアルにするかとか、もう少し彼をスタイル化して、もっと堅い感じにするかとかね。また、彼のジャーニーはどのぐらい急に変化していくかについても話し合った。こういう感情をあまり表に出さないキャラクターから、恋をして目覚め、もっと人間的になるのにね」
――撮影後に原作を読まれたのですね。読まれてどう思われましたか?
「サイモンは本当に見事な仕事をしたよ。Eメールを基に脚本を書くのはとても大変だよ。それと多くの変更が施されていた。クリスティン・スコット・トーマスのキャラクターは、小説では男だった。それはかなり大胆な変更だった。彼らは、より政治的な面は避けることにしていた。本はほとんど当時のトニー・ブレア首相を扱っていた。ちょっとトニー・ブレアのポートレイトのようだったね。でも、サイモンは時代を明確にしたくなかった。それで、僕たちはもっと時代を感じさせないようにしたんだよ」【Movie Walker】