「60歳になった時に俳優を辞めようと思った」ジャン・レノ、再び彼に火をつけたものとは?
ジャン・レノ主演最新作『シェフ! 三ツ星レストランの舞台裏へようこそ』が、12月22日(土)より公開される。高級フレンチの世界を舞台に、シェフたちの料理にかける情熱と、人々の悲喜こもごもが描かれる本作。味に厳しい大人たちも、思わず笑顔になるような、何ともコミカルで温かな作品に仕上がった。そこで、来日したジャンにインタビュー!
ジャンが本作で扮するのは、フレンチレストランで20年間、三ツ星を守り続けてきたベテランシェフのアレクサンドル。新たなインスピレーションが湧かず、スランプ気味のシェフを人間味たっぷりに演じている。シェフという職業にはとても思い入れがあるようで、「僕は料理が好きで、シェフの友人もとても多いんだ。職業柄、世界中を旅しているけれど、各地のレストランでキッチンに入って、シェフたちと挨拶を交わすのが大好きなんだ。僕は彼らを本当に尊敬している。毎日、毎日、いつも同じクオリティの高い料理を提供しなければならないんだからね」と賛辞を惜しまない。
続けて、「料理と映画作りは共通点が多いんだよ」と話す。「どちらもアートに関わっているということ。そして、孤独な面もあるね。この作品に関わって一番印象的だったのは、グレゴワール・フェランディ学校での撮影だよ。学校を使って調理のシーンを撮影したんだけれど、そこで料理を学んでいる学生たちが、厳しい訓練のなかにありながらも、とてもハッピーなメンバーだったんだ。本当に『料理が好きでたまらない!』といったように、楽しそうに学んでいた。彼らは、そこで卒業証書をもらえば、世界中どこに行っても仕事を見つけることができるだろう。そんな自信が彼らのなかにはあって、それこそがハッピーの源だと思うんだ」。
俳優もシェフも、自信と情熱が要となる職業だという。さらに、俳優という立場への思いを、こう語った。「俳優は複雑な職業だよ。プライドがあると、妥協ができないのが問題(笑)。たとえば、シナリオをもらって、一週間くらい『どんなふうに演じよう、こうしよう、ああしよう』って考えて撮影に行くよね。でも、それに対して、監督が『全然違う』と言うこともある。準備していったものが、全部没になってしまうことだってあるよ(笑)。パートナーの問題だってある。質の良いパートナーに恵まれるか、また恵まれても、その日、その時、彼の体調が完全かもわからないしね。だから、大事なのは、撮影のその日、その日、一瞬、一瞬にかけることなんだ。いつだって、オープンでいることが大事だね」。
「撮影をしていると、そこに小宇宙ができる」と笑顔を見せたジャン。「今回で言えば、『ジャン・レノはもうどこにもいなくて、アレクサンドルが生きているようにしか見えなかった』と言われるのが、僕にとって最高のほめ言葉だよ。それぞれの愛情、悲しみ、料理など、小さな世界が絡み合って、良い化学反応を起こすと、素晴らしい映画になるんだ」。
本作で、パートナーとなる若手シェフ、ジャッキー役に扮するのはミカエル・ユーンだ。彼らの丁々発止のやり取りが笑いを誘うなど、見事な化学反応を見せている。「ミカエルは、本当に頭が良くて賢い、才能ある男だよ。彼があんなに役になりきって、素晴らしい演技を見せたのは、驚きだった。彼はフランスでは、ティーンエイジャー向けのお笑い番組にも出ていたからね。そういったイメージとは全く違ったよ。今回、彼は恋人に対して思ったことをなかなか言えない、おどおどした男を演じているけれど、実際の彼は全然違ったね(笑)。積極的かもしれない」。ジャン演じるアレクサンドルも、女性には滅法弱いところが魅力の一つだ。ジャンは、「僕は、女性に対してお堅いとか、厳しいとか、そういった男性には全く魅力がないと思うんだ。そういう人は、きっと何の役にも立たないよ」とチャーミングな笑顔で話してくれた。
『グランブルー』(88)、『レオン』(94)で鮮烈な印象を残し、その後も数多くの作品に挑戦。寡黙な役どころから、愛嬌たっぷりのものまで、実に豊かな表情を見せてくれる。ジャンは「演じたいと思うジャンルには、全く限界がないね。僕は色々なストーリーを語るのが好きなんだ。60歳になった時に、一度俳優を辞めようと思って、一時期、ずっと家にいたんだよ。でも、しばらくすると、やっぱりまた外に出て、ストーリーを語りたい気持ちが湧いてきてしまうんだ」と、今の心境を告白した。
そして「友人の誰かが活躍しているところを見るのも、僕に火をつける原因だね。先日、マシュー・ブロデリックのミュージカルコメディをニューヨークに見に行って、『ああ!僕もこういう舞台をやってみたい!』って思ったんだ。僕のマッチに火がついちゃったんだよ。まだまだ、マッチ箱のマッチはなくなりそうにないね」と、尽きぬ情熱を明かしてくれた。ジャン・レノ、現在64歳。これからも、彼の胸の中で燃え上がる炎が楽しみでならない。まずは、美味しい料理のような本作で、彼の魅力を堪能してみてほしい。【取材・文/成田おり枝】