『ムーンライズ・キングダム』ウェス・アンダーソン監督「子供だけが自分がほしいものがわかっているんだよ」

インタビュー

『ムーンライズ・キングダム』ウェス・アンダーソン監督「子供だけが自分がほしいものがわかっているんだよ」

『ダージリン急行』(07)など、ユニークな登場人物が繰り広げる物語に定評のあるウェス・アンダーソン監督が、駆け落ちした12歳の男女と彼らを心配する親や周囲の人々の滑稽な姿を描く『ムーンライズ・キングダム』(2月8日公開)。ビル・マーレイやジェイソン・シュワルツマンらおなじみの顔ぶれに加え、ブルース・ウィリス、エドワード・ノートンも加わり、よりユニークな作品に仕上がった。そんな本作についてウェス・アンダーソン監督に話を聞いた。

――観客はウェス・アンダーソンの新作を見る時に、その独特のスタイルやユーモアさを期待すると思いますが、それにプレッシャーを感じますか?

「実は、いつも僕は新しい映画に入る時、前の繰り返しにならないようにというプレッシャーを感じているんだ。毎回、全く異なる映画を作っているという気がしているんだけど、でもはっきりしているのは、たとえば僕の筆跡のように、絶対に変わることはない何かがあるのは確かだ。そう、それは筆跡のようなものなんだ」

――監督の作品ではいつも同じ撮影監督(ロバート・イェーマン)を採用していますが、彼の持つ特別性と、どのような経緯で彼と仕事をし始めたのですか?

「彼とはデビュー作からの付き合いで、僕はこれまで彼以外の撮影監督とは仕事をしたことがないんだ。彼は僕に映画の現場とはどういうものかということを教えてくれた。最初に彼を雇った理由は、単純に彼の撮った映画が大好きだから、特に『ドラッグストア・カウボーイ』(89、ガス・ヴァン・サント監督)、僕らが初めて一緒に仕事をした僕のデビュー作『アンソニーのハッピーモーテル』(96、日本劇場未公開)の数年前に彼が撮った作品だったね。撮影監督というのは普通、もっと大作というか2倍の給料がもらえる作品を望むものだよ。それは一流の人たちも同じ。でもロバートはそんな人たちとは正反対なんだ。僕がプロデュースした『イカとクジラ』(05、ノア・バームバック監督)という映画を覚えてる?あの映画は当初、800万ドルのバジェットからどんどん制作費が下がって、しかも撮影開始はどんどん延期になったのに、ロバートは最初からあの作品の撮影を引き受けると言ってくれたことをずっと守ってくれて、他のもっと稼げる作品を断って、最終的に150万ドルくらいの低予算で開始された時に、ちゃんと撮影監督としていてくれたんだ。彼はそんな男なんだ」

――本作には10代初期の男女のセクシャリティーというものがあったと思いますが、それは最初から意図したものですか?

「いや、意図したことではなかったね。この映画に出資してくれたインディアン・ペイントブラシという会社は、僕の前作にも出資してくれたんだけど、彼らに今回の脚本を最初に見せた時に、とても乗り気になってくれたんだ。彼らはとても素晴らしいコラボレーターなんだ。この映画のふたりは12歳で、彼らは恋に落ち、その恋に真剣なんだ。映画の中で彼らがその恋をどこまで進めて行っているかは僕にもわからないけど、でも最初にふたりは深くロマンスを感じるんだ。そして、それがこの映画の全てだと僕は思っている」

――設定を1960年代中期にした理由を聞かせてください

「意図したわけではなく、偶然そうなった感じなんだ。何となくノーマン・ロックウェル(画家・イラストレーター)が描くアメリカをイメージしたんだ。それは皆がイノセントだった最後の時代という印象があったから。この子たちが18歳になる頃は、アメリカは文化の転換期に差しかかるだろうね」

――エドワード・ノートンの役はもしかしたら、前作まで長らくコラボしていたオーウェン・ウィルソンだった可能性も?

「あの年齢の役を書く場合は自動的にオーウェンを想定するけど、今回はファミリーの枠を拡げたい、新しい挑戦をしてみたかった。エドワードとは長い付き合いだったし、彼は素晴らしい俳優で一緒に仕事したかった、彼のことは良く知っていたし、彼はノーマン・ロックウェルの世界にぴったりのルックスだと思ったよ」

――監督のこれまでの映画は常に大人が主人公でしたが、今回は子供の主人公にシフトしていますね

「そうだね。一つ、この映画ではっきりしているのは、子供たちだけが自分がほしいものが何かわかっていて、それを得るために懸命になっている。僕は決して子供が皆、イノセントだとは思わないけど、彼らの話し方や行動に出る純粋さというのは子供たちにしか出せないものだ。それは彼らにとっての特権だし、何でも可能だとういう証なのかもしれない」

――しっかり指導をするタイプの監督という評判ですが、突拍子もないことや予想外のことが起こった場合はどう対処するのですか?

「たとえばロバート・アルトマン監督は、現場で俳優たちに自由に演技をさせて、そこで起こる偶発的瞬間をとらえることが映画作りのスタイルとなっていた。僕のやり方は正反対で、僕は偶発的なことが起こるのを現場で待っているのではなく、後でラッシュを見たり編集の時に突拍子もないことが結果的に起こっているのを見つけるのが好きだし、それを望んでいる」

――イベント的な大作映画が多く作られる昨今、監督のようなタイプの映画を作り続けるのは大変だと感じますか?

「僕はずっと恵まれていると思う。新作を作りたいと思えば、同意して作ってくれる人がいつもいる。もちろん、最初の映画は全然ヒットしなかったし、2作目『天才マックスの世界』(98、日本劇場未公開)もかなり時間がかかった。でも、その後はラッキーにも順調に作り続けられてるし。ただ前作『ファンタスティック Mr.FOX』(09)はアニメーションということでちょっと大変だったけどね」

――今回の映画はフランソワ・トリフォーの『大人は判ってくれない』(59)にインスパイアされたとか?

「そう。見た人は映画としてのつながりは感じないかもしれないけど、主人公の子供の目線で描かれているという点に共通点が見られると思う。また、ケン・ローチ監督『Black Jack』(79、日本劇場未公開)という映画にも多いにインスパイアされたよ。多分、ほとんどの人が見ていない映画だろうけど、レンタルで探して見てみて!良い映画だから!(※日本でセル・レンタル共になし)」【Movie Walker】

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