薄毛・デブ・マザコンで自意識過剰なオタクが恋したら?
アニメ、アイドル、ゲーム、コミック。日本のオタク文化は周囲からとやかく言われながらも、確実に市民権を獲得してきた。では、海外のオタク事情はどうなのか?その答えがわかるとはまで言えないが、3月2日(土)より公開の『ダークホース リア獣エイブの恋』は、アメリカで暮らすオタクの生態、特に悪い部分の生態がよくわかるコメディ映画だ。
本作の主人公エイブは実家暮らしで、親元から離れようとしない典型的なパラサイト中年。フィギュアの収集とテレビアニメ「シンプソンズ」をこよなく愛する30代のオタク男だ。仕事そっちのけでネットオークションに熱中できるのは、父親の会社で働いているからこそ。トイザらスの常連客でもあり、商品に少しでも傷がついていようものなら、怒涛のクレームで店員を責める。その一方で、自身の失敗には「生まれる時代を間違えた」と吐き捨てる、何とも自分勝手で痛い男なのだ。
そんなろくでもない勘違い男エイブに突如として運命の恋が訪れる、というのが映画のストーリー。相手となるセルマ・ブレア演じるメンヘラ気味な美女は、大失恋をきっかけに「もうどうにでもなれ!」と半ば暴走気味に彼を拒まなかっただけなのだが、この一目ぼれの瞬間から始まる根も葉もないアピールの連続は、かなり鬱陶しくて、かつおかしいのだ。
本作を手がけるトッド・ソロンズは、これまでに人種差別や性的虐待、屍姦などタブーとされているテーマで、ブラックな笑いに満ちた映画を撮ってきた鬼才。デビュー作の『ウェルカム・ドールハウス』(97)はサンダンス映画祭グランプリを、2作目『ハピネス』(98)は第51回カンヌ国際映画祭で国際批評家賞を受賞するなど、その実力は証明済み。エイブというキャラクターには、ソロンズ独自のオタクという存在に対する視点と皮肉がうかがえる。
果たして、エイブはこの恋愛のダークホースになれるのか。超痛い男の運命の恋の行方に注目してほしい。【トライワークス】