染谷将太&秋吉久美子、超年の差夫婦役を演じたふたりの現場とは?
娯楽映画の大作から、カルト作品、過去の名作までを上映し、映画ファンから愛され続けてきた映画館・銀座シネパトスが、三原橋地下街の取り壊しに伴い、3月31日(日)に閉館する。その最後は、しんみりと終わるのではなく、打ち上げ花火のように心躍る派手なフィナーレになりそうな予感!何と『インターミッション』(2月23日公開)という、シネパトスが舞台の痛快な映画で幕を閉じるのだ。その企画に賛同した秋吉久美子、染谷将太ら、映画を愛する俳優陣が集った本作の現場は、実に心温まるユニークなものだった。
本作のメガホンを取り、脚本を手掛けたのは、映画評論家としても活躍する樋口尚文。舞台を劇場の客席に絞り込み、そのインターミッション(休憩時間)に集まった個性的な観客たちがアンサンブル演技を繰り広げるというブラックコメディに仕上げた。映画を愛する人たちの友情の輪が広がり実現した本作に、秋吉、染谷の他、香川京子、小山明子、水野久美、竹中直人、佐野史郎、佐伯日菜子など、新旧交えた多彩な俳優陣が顔をそろえた。
秋吉が映画館の支配人役に、染谷がその夫役という設定も斬新だ。キャスティングについて、「2つのポイントがありました」という樋口監督。「1つは映画、テレビを経てきた昭和のヒロインやヒーロー、もう1つは昭和が持っていた良い意味で、はっちゃけたようなものを継承している平成生まれの役者さん。それが秋吉久美子さんと染谷将太さんでした。このふたりをくどいて、駄目だったら、この企画は止めようと思っていました。そうしたら思いの外、面白いと言ってくださり、その後、声をおかけした方も皆さん、断られませんでした」。
そこからはトントン拍子に話は進んだ。「スタッフもテーマに賛同してくれて、ボランティアみたいな感じで参加してくれました。すごく幸福感のある現場でした」。染谷は「樋口さんとは企画の話をいただく前からお会いしていましたが、 つまらないわけがないと思っていました。何も断る理由がなかったから、やらせてください!って感じでした」と振り返る。
この日の撮影は、映画館の支配人クミコ役に扮した秋吉久美子と、染谷扮する若い夫ショウタが、映画館前で軽い口論をするシーンだった。シネパトス1では、「不死身の男 セガール特集」と題した『沈黙の戦艦』と『暴走特急』などが特集上映されているという設定もツボを突いている。シネパトス前は公道のため、通行人もエキストラに混ざって普通に行き来しているのが印象的だった。そんななか、金髪ロングヘアの染谷が異彩を放つ。
染谷のヘアスタイルについては、樋口監督のこだわりがあった。「僕の中の染谷さんのイメージとしては、ある種、妖気をはらんだ、美しいけどマッドなところがある人というものでした。そうしたら、ちょうど『永遠の0』(12月公開)の撮影で短髪になっていて愕然としたんです。それで至急、かつらを用意して、『ベニスに死す』(71)のビョルン・アンドレセンですと言ったら、馬鹿受けしていました(笑)」。樋口監督の言葉を聞いて、染谷からも笑みがこぼれる。
秋吉に対して、染谷がどう向き合ったのかも気になるところだ。「僕が自分で気をつけたのは、秋吉さんに変に気を遣わないことでした。もちろん、大ベテランの女優さんですが、僕の奥さん役なので、下手に遠慮したら駄目だと思いました。人間として最低限のご挨拶はしましたが、機嫌を伺ったりは絶対しないようにしようと思いました。でも、秋吉さんは、どんと現場にいらっしゃって、若い世代にはない立ち方をされていたので、逆に乗っかかれたというか、世代が違うので、こちらも好きに演じられたという感じがしました」。
確かに、かなりの年の差カップルなのだが、不思議と違和感はあまり感じない。このふたりのやりとりをはじめ、バラエティ豊かな俳優陣のアンサンブルは見ていて愉快で心地良い。そして最後にはあっと驚く仕掛けも用意されている。『インターミッション』は低予算の手作り映画だが、決して侮れない快作となった。映画愛にあふれた一作だから、気合を入れて臨みたい!【取材・文/山崎伸子】