阿部寛、初フランス映画で「戸惑ったのは孤独死のとらえ方」
阿部寛が、西島秀俊と共にフランスの新人女性監督オドレイ・フーシェ監督作『メモリーズ・コーナー』(2月23日公開)に出演。1995年に発生した阪神・淡路大震災から10数年後の日本を舞台にした本作で、彼が演じたのは、フランス人女優デボラ・フランソワ扮するヒロインと心を通わせるゴースト役だ。本作で流暢な英語を披露した阿部にインタビューし、初のフランス映画に出演した感想を聞いた。
ヒロインと英語でコミュニケーションを取るという設定のため、セリフのほとんどが英語だった。「日本が舞台だけど、日本語をほぼ使わない映画ということで、面白い挑戦でした。でも、ゴースト役なので、セリフが浮世離れしている。英語だからこそ、生々しい感情がむき出しにならなかったのかもしれません」。
フーシェ監督については「まだ若いし、新人の監督でしたが、こだわりがきちんと伝えられる人だった。少し戸惑ったのは、孤独死に対しての監督のとらえ方です。日本人は孤独死を、社会的な問題にとらえる。僕は最初、ドキュメンタリーと思っていたんです。でも、実はそうではなく、愛を失い、さまよう3人の話を描きたいということで。それを理解するのに時間がかかりました。フランスには輪廻転生という考え方がないそうですが、監督がそこに興味を持ち、本作を撮った。人の中にある思いの深さをすごく大事に描いた作品です」。
日本でロケをした本作だが、映像美にはフランスのエスプリが感じられる。「フランス人が撮ると、日本なのに、普段見ている風景とは違うように見え、驚きました。また、自分たち俳優も、そういう空間に染まっていくのが不思議でしたね。主演のデボラさんとも、一緒にやっていて、独特の空気感を感じました。外国人と一対一で芝居をするってことは、やはりお互いに引っ張られていくんでしょう。以前、タイ映画『チョコレート・ファイター 』(08)に出させてもらいましたが、あの時は相手が東洋人だったし、『テルマエ・ロマエ』(12)でイタリア人との共演はありましたが、日本映画だったし。今回は僕がフランス映画の一部にならなくてはいけなかったから。がっつり海外のチームのなかで、自分がその色に染まっていくのは、すごく嬉しいことでした」。
本作に出演したことで、色々と新鮮な発見があったようだ。「映画に対する情熱は、基本的にどの国も一緒だなと思えました。タイ映画の時もそうでしたが、根底は同じなんだなと」。
とはいえ、コミュニケーションでの笑い話がある。「フランス人スタッフの間で『日本人には絶対に挨拶でキスしちゃ駄目。失礼になるから』という伝令が回っていたらしくて(苦笑)。いや、別に良いんじゃないかと、僕は思ったんですが、そういう誤解もありました。撮影の最後に初めてそれがわかったんです」。
2012年度は『テルマエ・ロマエ』(12)で、日本アカデミー賞、ヨコハマ映画祭、ブルーリボン賞などで主演男優賞を受賞した阿部。「コメディ作品ですから、図に乗る心配はないと思いますよ」とおちゃめな笑顔を見せる。「賞がプレッシャーになるのは嫌ですね。それよりも、自分にできることをやらせてもらう幸せの方に、意義があるんじゃないかなと」。
今後も国内だけでなく、ボーダレスな活躍が期待できる阿部寛。たとえ映画賞を幾つ受賞しようとも、常に謙虚で、作品に向かう姿勢はきっと変わらない。2013年も様々な作品で人々を魅了してくれそうだ。【取材・文/山崎伸子】