ロバート・ゼメキス監督が明かす、デンゼル・ワシントンとトム・ハンクスの違いとは

インタビュー

ロバート・ゼメキス監督が明かす、デンゼル・ワシントンとトム・ハンクスの違いとは

巨匠ロバート・ゼメキス監督と名優デンゼル・ワシントンが初タッグを組んだ『フライト』が、いよいよ3月1日(金)より公開される。それぞれが、できうる限りの表現方法を追求してきたふたり。ふたつの才能がぶつかりあった本作は、壮大なスケールのエンタテイメントでありながら、真の正義、自由を問う、深遠な人間ドラマに仕上がった。そこで、来日したゼメキス監督を直撃!「驚きの連続だった」というデンゼルとのコラボレーション、映画への愛情までをたっぷりと語ってもらった。

本作の主人公は、奇跡の緊急着陸で多くの乗客を救うウィトカー機長(デンゼル・ワシントン)。一躍ヒーローとして有名になるが、その後、血液中からアルコールが検出され、世間から疑惑の目を向けられることになる。先の読めない展開にハラハラとさせられるが、ゼメキス監督は「とにかく素晴らしい脚本だった」と振り返る。「この脚本を読んだ時に、とてもインスピレーションを感じたんだ。ものすごく独特なものだったからね。それと同時に、デンゼル・ワシントンと一緒に仕事ができることに、ワクワクした。この作品に取り組もうと決めてからというもの、やれるだけのことはやってやろうと、毎日、興奮していたよ」。

飛行機は、高度3万フィートから急降下。ウィトカー機長は背面飛行という、離れ業で緊急着陸を成し遂げる。特殊効果を駆使した墜落シーンは、迫力満点。最新の映像技術にトライし続けてきたゼメキス監督の真骨頂ともいえる、手に汗握るダイナミックなシーンとなった。「映画芸術というのは、現実の世界とは違った、独特なものを見せることができるもの。映画を作る上で、より新しいもの、より特異なものを見せることは、その映画の娯楽性を高めるものだと思っているんだ。けれど、私の希望としては、それが観客の鑑賞の邪魔にならないようにしたいと思っている。私が本当に見せたいのは、人間味のある、感情のあるドラマだからね」。

これまでの作品を振り返ってみても、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85)、『フォレスト・ガンプ 一期一会』(94)、『コンタクト』(97)など、意欲的に最先端の技術を使いながらも、その核にあるものは魂を揺さぶるドラマだ。「私が一番好きな視覚効果は、アップなんだよ。私の映画では、いつもアップのシーンを多く使うんだ。現実の世界では、アップってないだろう(笑)?それは、映画のなかだけにしか存在しないものだからね」。

こう語るように、本作でもウィトカー機長の緊張、弱さ、苦悩をアップで捉え、彼の心の闇に迫っていく。ゼメキス監督は「デンゼルとの仕事は、毎日が驚きの連続だった」とデンゼル・ワシントンの演技に舌を巻く。「特に印象深かったのは、デンゼル演じるウィトカーがホテルのバーでお酒を飲むシーンだ。楽しんでお酒を飲んでいるのではなく、そうするしかなかったという、ウィトカーの惨めさが強烈に伝わってきた。どこからその惨めさを引き出してきているのか、どうしてデンゼルがそんな演技ができるのか、私にはわからないくらいだよ(笑)。まるで魔法のようだったね」。

同じく名優のトム・ハンクスとは、3度のタッグを組んできたゼメキス監督。トム・ハンクスとデンゼル・ワシントンの魅力、また違いとは何だろう?「このふたりの役者は真のプロフェッショナルであり、ふたりともとても準備が良く、用意周到に撮影に臨むんだ。そして、自分の演技のなかに、正直さと真実味を込められる俳優だね。それはもう、生まれ持った才能だ。違うと思うのは、トムの方が、よりリラックスして仕事に臨むタイプかもしれないね。デンゼルは、集中して、勢いを持って仕事に臨むんだ」。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85)のマーティやドク、『フォレスト・ガンプ 一期一会』(94)のガンプ、『キャストアウェイ』(00)のチャック、そして本作のウィトカー機長。ゼメキス監督の描くキャラクターたちは、人間はいつでも、どこでも、スタートラインに立つことができるものだと教えてくれる。「映画において、この地球上で生きることの神秘や謎を、少しずつ表現することができればと思っているんだ。そこから、生きることに希望を持ってもらえたり、『自分の人生、これで良いんだ』と思ってもらえたら、とても嬉しいね」と笑顔を見せた。

続けて、本作に込めた思いをこう語ってくれた。「私たちは人間だから、もちろん完璧な存在ではない。誰だって、欠点もあるだろう。大事なのは、その欠点をちゃんと認められる謙虚さを持つことなんだ。そしてより良い人間になろうと、努力することが大事。そう思ったとしても、実際には完璧になれるものではないのだけれど、とにかく努力をし続ける。それは、一生をかけての旅と言えるものなんだ」。

新たな映像表現にチャレンジし続けるハリウッドの巨匠は、“努力の人”だった。日々の積み重ねがドラマとなり、感動を生む。そんなメッセージがあるからこそ、ゼメキス監督の作品は私たちの心に寄り添い、大きなカタルシスを与えてくれる。是非とも『フライト』に乗り込んで、ウィトカー機長の心の旅を見届けてほしい。【取材・文/成田おり枝】

作品情報へ

関連作品

  • フライト

    3.3
    299
    ロバート・ゼメキス監督が12年ぶりに実写映画に復帰したヒューマンドラマ
    Prime Video U-NEXT