ジェームズ・フランコ「良い人役は演じていてつまらない」
天は二物を与えずというが、ジェームズ・フランコは、二物どころか、マルチな才に恵まれている。『スパイダーマン』シリーズのハリー役で世界的にブレイクし、『127時間』(10)でアカデミー賞にノミネートされ、俳優としての演技力はお墨付き。また高学歴で、現在もイェール大学大学院博士課程に在籍しながら、ニューヨーク大学などで教鞭を取り、さらに小説家、映画監督としての顔も持つ。最強のスターであるジェームズが、『スパイダーマン』のサム・ライミ監督と再びタッグを組んだのが『オズ はじまりの戦い』(3月8日公開)だ。来日したジェームズにインタビューし、本作の魅力を語ってもらった。
本作で描かれるのは、不朽の名作「オズの魔法使い」に登場する、謎に包まれたオズの誕生秘話だ。彼が演じたオズは、マジシャンというよりも自己中心的なチャラ男のペテン師である。 「ライマン・フランク・ボームの原作シリーズは子供の頃から大好きで、読み尽していた。オズに関しては、バックグラウンドも含め、原作の数冊で登場するけど、僕が演じたオズとは全く別物だったと言える。映画では、幻想的なオズの国を舞台にした冒険を通して、身勝手な男が偉大な人物へと成長して行く過程に、より焦点を当てているよ」。
オズ役を演じる上で、苦労した点とは?「基本的には楽しいことの方が多かったよ。サム・ライミ監督とは旧知の仲だし、彼との仕事はいつだって最高に楽しいから。サムは良い人なだけでなく、役者のアイデアを積極的に取り入れてくれるから、演じる側としてもやり甲斐がある。苦労した点といえば、撮影にかなりの時間を要したことくらいだ。何せ作品のスケールが半端じゃないから。でも、素晴らしい監督と共演者たちのおかげで、何とか乗り切ることができた」。
サム・ライミ監督を心からリスペクトしていると言うジェームズ。「何といっても、現場でのふるまい自体が素晴らしい。監督は、現場を率いる立場で、キャストやスタッフをくっつける接着剤でもあるが、彼は常に楽しい雰囲気を作ってくれる。みんなが楽しければ、そこで一番良いアイディアやパフォーマンスが引き出されるんだ。彼は、他のどの監督よりもポジティブだと思う」。
サム・ライミ作品の魅力についてはこう語った。「コメディではないジャンルの作品でも、コメディ的要素が注入されているという点だ。僕が演じたオズも、脚本ではかなりマヌケで笑えるキャラクターとして描かれていたので、そういう方向性で演じることにした。コメディ色を強く出すことで、他の『オズの魔法使い』の映画化作品とは一線を画す映画になると思ったし。僕なりの解釈で、ユーモアたっぷりに演じたつもりだよ」。
魔術師という役柄のため、実際にマジックのトレーニングを積んだそうだ。「僕にマジックを教えてくれたのは、世界的に有名なマジシャン、ランス・バートンだ。彼から、人を消したり、浮かばせたりするいろんなトリックを学んだよ。映画のなかでは使ってないけど、ハトを登場させたりするトリックも実は学んだんだ」。なかでも一番得意なマジックは?と尋ねると、少し考えながら「恋に落ちさせるトリックかな? それが僕のベストマジックさ」と、いたずらっぽく微笑んだ。
本作のオズをはじめ、『スパイダーマン』のハリーなど、心に弱さや醜さを抱えながらも、悪人になりきれないという役柄を数多く演じてきたジェームズ。その理由について「良い人役って演じていてつまらないから」と言う。「欠陥があるキャラクターを演じる方がやっぱり面白い。人生において、我々は常に良き人間になるべく努力をすべきだと思うけど、フィクションの世界というか、全ての芸術においては、自分の良いところを見せようと思うよりも、欠陥であったり足りないところを見せる方がより面白いと思う。そのことは、僕が教えている生徒にも言っているよ」。
ジェームズが言うとおり、演じたオズは、冒険を通じて成長していくという、人間味にあふれた魅力的なキャラクターに仕上がった。そして、ドラマをもり立てるのは、実に臨場感にあふれた立体的な3D映像だ。是非オズたちと共に、しばしの間、おとぎの国を堪能しに行こう。【取材・文/山崎伸子】