キーファー・サザーランドが語る役選びのポイントは?
ハーバード大学の演劇部主催のヘイスティ・プディング賞で、男優賞であるマン・オブ・ザ・イヤー2013を受賞した人気テレビシリーズ「24 TWENTY FOUR」のジャック・バウワーでお馴染みのキーファー・サザーランドが、ミーラー・ナーイル監督最新作『The Reluctant Fundamentalist』でインタビューに応じてくれた。
同タイトルの原作を映画化した本作は、アメリカンドリームを夢見てニューヨーク、ウォール街にやって来たパキスタンの青年チャンゲスのサクセスストーリーと、2001年9月11日に起きた世界同時多発テロによって彼の人生が激変していく様を色々な人間模様を通じて描いたヒューマンドラマだ。
キーファーは、そのチャングスを見初め、ヘッジファンド会社で出世だけを生き甲斐に生きる冷徹なマネージメントディレクター、ジム・トスを演じている。
「ジムは、恐らくチャングスと同じで貧しい家に生まれて、金銭的な成功を収めることだけに集中して生きてきた男なんだ。はっきりとは言われてなかったけれど、ゲイの愛人がいるけど、家族もいない孤独な男だから、共感もしないし興味もない。好きでもないけど、この男を理解しているつもりだよ」。
「僕はいつも役を選ぶ時に、その人物の好き嫌いとか共感できるかではなく、ストーリーテラーになれる役を演じたと思っている。たとえば、『レイジング・ブレット復習の銃弾』(96)では、17歳の少女をレイプするってひどい役どころを演じた。本当に嫌な奴で、考えただけで辛いことだった。でも、1992年頃のロサンゼルスは暴力やレイプが横行している社会でセンセーショナルなニュースが流れていたのに、それが解明されないケースも多々あった。そのことを世間に知らせたいと思ったから、この役をやろうと思ったんだ。同じような役どころは二度やらないようにしているし、これが僕の役選びの基準なんだ」と答えてくれた。
同作に強い興味を持ったのは、はやり世界同時多発テロの影響が大きいという。
「あの日、ロサンゼルスの5時45分(NY時間8時45分)に友達から電話をもらって、世界貿易センターに飛行機が突っ込んだことを知らされたんだ。仕事には行かない方が良いって言われて、散歩から家に戻って2機目が追突するのをテレビで見たんだ。僕はコンピューターを持っていなかったから友人に見せてもらったんだけど、ビルの最上階の方にいて助けを求めていたふたりが、最終的に決心してふたりで手をつないでビルから飛び降りたシーンは、あまりの衝撃の大きさに言葉を失うばかりだった。家族や友達がとても大切に思えて、自分の元妻や子供にも連絡したんだけど、今でも残像に残っているのは崩壊したビルや飛行機で犠牲になった人々、そしてその家族、友人らの深い悲しみなんだ。それはその後もずっと変わらない。そして、この映画に関わりたいと思った」と、同作に出演する経緯を語ってくれた。
残念なことに、トライベッカ映画祭の直前にもボストン爆発テロ事件が起こったが、同作に出演したことで、ストーリーを語りたかった出演前の彼自身をも変えるきっかけになったという。
「9.11の直後、僕はただあまりのひどい出来事に、ただ憤っていた。でも脚本を読んだり、色々調べていくうちに、それは間違いだと気付いたんだ(テロを容認しているわけではない)。こういうことが起こる背景には、人種の問題、偏見、無知、いろんな問題があって、それは人間を変えてしまうほどのものだということ。僕たち普通のアメリカ人は中東のことをほとんど知らないから、そういうことをもっと勉強しないといけないし、二度とこんなことが起きないためにも、なぜこんなことが起きたのかを知るべきだと感じた。この映画で僕の意識は明らかに変わったんだ。だから、何か馬鹿なことをしようと思っている人がいたら、是非この映画を見て、一呼吸おいて考え直してくれることを切に願っている」と熱く語ったキーファー。
現在はポール・トーマス・アンダーソン監督作『Pompeii』(全米2014年2月28日公開予定)に、そしてタイトル未定の西部劇では父親のドナルド・サザーランドと共演するそうだが、次はどんな顔を見せてくれるのか?
また、長い間頓挫している映画版「24」については、「とにかく僕も一生懸命、製作に向けて頑張っているよ」と具体的な日程は明らかにしなかったが、『The Reluctant Fundamentalist』の出演で、テロへの考え方や思いが変わったキーファーが、どんなジャックを演じてくれるのか。今から公開が待ち遠しくてならない。【取材・文 NY在住/JUNKO】