綾野剛の恋愛観は「楽しいことは0.5割。あとの9.5割はキツイことしかない」

インタビュー

綾野剛の恋愛観は「楽しいことは0.5割。あとの9.5割はキツイことしかない」

今、最も色気を放つ役者の一人、綾野剛。主演最新作『シャニダールの花』(7月20日公開)は、人間と花の関係性を通して、新たな男女の姿を提示するミステリアスな物語だ。そこで、綾野を直撃!愛について語ってもらった。

本作は、石井岳龍監督が7年もの歳月をかけて温め続けてきたという入魂の1作だ。「人の胸に花が咲く」という謎めいた設定のもと、花に侵されていく男女の姿を描き出す。綾野が演じる植物学者の大瀧は、花の研究を進めるなかで、アシスタントの女性・響子(黒木華)の才能に惹かれ、次第に恋に落ちていくのだ。綾野は「2人の関係は、愛や恋という感覚ではなかった」と話す。「触れたいとか、嗅ぎたい、体温を感じたい。そういう感覚だったと思います」。

鼻と鼻を重ね合わせる、印象的な美しいラブシーンがあるが、このシーンにはこだわりがあったようだ。「台本には『キスをする』と書いてあったんですが、彼らはとてもプラトニックな関係だったと思うので、石井監督と『キスはしない方が良いと思う』という話をさせてもらって。監督は『キスしろ!』と思いながら見ていたようですけれど。彼女が花だとすると、『この特別な花に触りたい、嗅ぎたい』という感情が前に出てくると思ったんです。『お前を愛している』とか『交わりたい』とか、そういう感じではなかった。大瀧にとって彼女は、愛や恋など、全てを超越した存在だったんです」。

「嗅覚や触覚で、大瀧役を演じた。植物が生きているかどうかは目で判断できないように、目で見えるものを疑っていくことが多かったように思う」と役作りの過程を振り返る。冷静であったはずの大瀧は、響子に特別な感情を抱くことで、徐々に冷静さを失っていく。見事に動と静を演じきった綾野は、大瀧の変化をこう語った。「人は愚かなものですから。大瀧は、限りなく花に近い人だったはずなのに、『彼女を守りたい』という思いから、新たな感情が生まれて、どんどん人っぽく、愚かになってしまう。非情ですよね」。

深く愛し合いながらも、未来への選択をめぐってすれ違ってしまう2人。本作では、言葉では説明しきれない、複雑な愛の形が描かれるが、綾野にとって「愛すること」とはどのようなことだろう。「愛とは、“許すこと”だと思う。僕はまだ、本当の意味での愛を知らないので、いまだに“許すこと”という答えしか出てこないんです。愛って、人を豊かにもするし、苦しめたりもするし、決して容易なことじゃない。多分、楽しいことなんて、0.5割くらいなんじゃないかな?あとの9.5割はキツいことしかないと思う」。

「だからこそ、“許せる”というのが、人が本能的に、本質的に、一番持ちえなければいけないことだと思うんです。それは、『浮気をしたけれど、許す』とか、そういう表層的なことではなくて」と綾野。物事を受け入れて、許すことが大事。その考え方は、男女間の愛だけではなく、人と接する時、全てにおいて感じることだと続ける。「例えば、街を歩いていた時に誰かに殴られたとする。その時に、怒ったり、殴り返すよりも、起こったことを受け入れて、『なんで殴られたんだ?』と考える方が、人生って楽しくないですか?」。

笑顔を見せながら、楽しんでインタビューに答えてくれた綾野剛。受け入れることを恐れず、自由にあらゆることを吸収しようとする姿が実に魅力的だ。きっと、そんな彼だからこそ、どんな役にも見事に染まってしまうのだろう。是非とも『シャニダールの花』で、彼の色気に酔いしれてほしい。【取材・文/成田おり枝】

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