菅田将暉&青山真治監督が『共喰い』の果敢な性描写の舞台裏を激白
第66回ロカルノ国際映画祭で「YOUTH JURY AWARD最優秀作品賞」と「ボッカリーノ賞最優秀監督賞」をダブル受賞した『共喰い』(9月7日公開)。原作は、田中慎弥の第146回芥川賞受賞作の同名小説で、「仮面ライダーW」の菅田将暉が主演を務め、『東京公園』(11)の青山真治がメガホンを取った。『ヴァイブレータ』(03)の荒井晴彦が、ロマンポルノを意識した脚本を手掛け、菅田と青山監督は、原作にもある雄々しい性表現にもトライした。菅田と青山にインタビューし、気になる撮影秘話について聞いた。
舞台は、昭和最後の夏の山口県下関市。17歳の高校生・遠馬(菅田将暉)は、暴力的な性癖を持つ父・円(光石研)に嫌悪感を抱きつつ、自分にも父と同じ血が流れていることを感じている。そんななか、父による痛ましい事件が起こる。青山監督は「本作では、小説に書かれているものを忠実に映像化する、ダイレクトに撮るようにしました」と言う。「今まではあまりしたことがなかったんですが、今回は動植物から人間、男性器から、精液に至るまで、即物的に描くとどうなるか、ということをやってみました」。
菅田将暉は、遠馬役について「共感はしました。映画のような出来事は体験していませんが、性的な部分も含めた遠馬の苦みや悩みはすごくわかりました」と振り返る。青山監督作で、ここまでリアルな性描写がなされた作品は珍しい。でも、その表現が生々しければ生々しいほど、遠馬のギラギラした若さや、焦燥感、苦悩が一層浮き彫りにされていく。
本作で、初めて濡れ場にトライした菅田。青山は、荒井晴彦の脚本について「性描写が、脚本には詳しく書かれていなくて、現場でやるしかなかったんです(苦笑)」と、恨み節をもらすと、菅田も「監督、そのこと、ずっと言ってますね」と微笑む。青山は「だから、現場でこの人たちに懸けるしかなかった。どこまで即物的になれるかってことで、カット割りを決めていきました」。
菅田は「性描写は、めちゃくちゃ緊張しましたが、遠馬もそうだったんだろうなと思います。特に、後半のラブシーンでは、ライトも熱くて、ポトポトと汗がしたたり落ちました」と思い出しながら、うなる。青山も「現場で作っていくなかには、菅田将暉の緊張みたいものも含めて、画面に映ったら良いなあと。それは狙いというより、希望でした。それが出ていて良かったです」と満足気に話す。菅田も「汗は全然足してないです。リアルでしたから」と笑う。
性描写でいえば、全編通して監督が一番苦労したのは、光石研扮する父・円と、妻・琴子とのセックスシーンである。遠馬がそれを垣間見るシーンは、原作でも強烈なインパクトを放つひとコマだ。円の性器が雄々しくそそり立つ姿が、蚊帳越しに描かれる。「仕掛けにすごく時間がかかりました」という青山監督。「蚊帳を吊って、風を当ててゆらゆらさせながら、光石さんが(性器をかたどったものをつけた)ベルトを装着する。シルエットで見える陰毛の量が難しかったり、ベルトについた金具が光ったりと、想定外のことが山ほど起こって。『あれを塗れ!毛をもう少しカットしよう』とか、いろんなことをやりながらできたショットでした」。菅田も「あれは、大変そうでしたね」とうなずく。
菅田に、青山組の面白さについても聞いてみた。菅田は「僕が監督の魅力を語るんですか?」と恐縮しながら「人生の後輩として思うのは、面白いと思うことをやろうとする監督の姿勢がすごく好きです」と照れながら言うと、青山監督は「その姿勢は買うぞと?」と茶化す。菅田は笑いながら「やっぱり、面白いことをやりたいですよね。それを職業にできるって、すごいことだと思います。」と目を輝かせる。ふたりのやりとりを見ているだけで、信頼関係がじわじわと伝わってきた。
原作者の田中慎弥自身も、映画の出来に太鼓判を押したという映画『共喰い』。それは、菅田将暉と青山真治監督のコンビネーションをはじめ、力強い原作や、荒井晴彦の脚本も含め、それぞれの才能が素晴らしい形で化学反応を起こしたことが大きかったのではないだろうか。菅田や青山真治監督にとっても、代表作となるであろうこの1本は、是非、スクリーンで見てほしい。【取材・文/山崎伸子】