菅田将暉、青山真治監督の現場は「突き詰めていくと快感だった」

インタビュー

菅田将暉、青山真治監督の現場は「突き詰めていくと快感だった」

『仮面ライダーW』の菅田将暉から、『共喰い』の菅田将暉へ。菅田が「転機となりました」と公言した主演映画『共喰い』が、9月7日(土)から公開される。田中慎弥の第146回芥川賞受賞作の同名小説を、『東京公園』(11)の青山真治が映画化した本作。第66回ロカルノ国際映画祭で「YOUTH JURY AWARD最優秀作品賞」と「ボッカリーノ賞最優秀監督賞」をダブル受賞したことでも話題だ。本作で、菅田と青山監督にインタビュー。ふたりは和気あいあいとした雰囲気で、撮影秘話や裏話を語ってくれた。

本作の舞台は、昭和最後の夏の山口県下関市。17歳の高校生・遠馬(菅田将暉)は、暴力的な性癖を持つ父・円(光石研)に嫌悪感を抱いている。でも、自分にも父と同じ血が流れていることを実感していくなかで、ある日、痛ましい事件が起こる。遠馬役の菅田については、目力で決めたという青山監督。「菅田がいればそれで良し、としか考えてなかったです」と言った後、『共喰い』のポスターを指差し、「横になった顔、すごいインパクトがあるでしょ」と、満足気にうなずく。

遠馬役はかなりの難役に思えるが、菅田はどうアプローチしていったのか?「難しかったですけど、突き詰めていくと、快感だったりもしました。たぶん、この役をやり切った後の自分に、大きな変化が起こるだろうと思ったから。絶対に、この出会いは大きいと最初に直感で思いました」。

その直感は、見事に大当たりした。「初めて海外の映画祭に行けたし、映画に出ている自分を初めて客観視できました。これまでも菅田将暉として芸能界にいて、仕事ですがお芝居は楽しいし、いろいろな作品に関わらせていただき、すごく感謝していました。でも、二十歳になりたての自分が、果たして職業欄に“役者”と書けるのか?といえば、難しいなあと。でも、これからは、そういうことを考えずに済むというか、単純に、これからもずっとこの世界にいたいと思ったんです。ロカルノで、僕を知らない人たちが映画を見て、素直に親指を立てて『良かった!エモーション!』と、言ってくれた姿を見て、そう実感しました」。

青山監督も「僕も、昔は入国カードに“映画監督”と書くのにすごく迷い、“映画関係”と書いてました(笑)。最近は悩むこと自体が面倒くさいから、“映画監督”と書くけど」と苦笑い。菅田は「“映画関係”か!なるほど」と屈託なく笑う。

本作で描かれている女性のたくましさについて、青山監督に質問。近年、『サッド ヴァケイション』(07)、『東京公園』(11)など、女性の強さが際立つ作品が多いが、そういう点は意識されているのだろうか?「21世紀に入ってから、むさ苦しい男たちは、どうでも良い、女しか撮りたくない、というのが基本姿勢となりました。まあ、冗談ですが(笑)。やっぱり、女性って計り知れない、わかり切れない、いつまでたってもミステリーなんです。だから、女性賛美がテーマなんですよ」。それでは「男性の菅田さんは?」と、敢えてふってみると、「魅力を感じる男性がいるからこそ、キャメラを向けるんです」とのこと。さらに続けて、菅田に「続けてやりたいよね。せっかく知り合ったから、1本切りだと寂しい。やればやるだけ膨らんでいく気がするので」とラブコール。菅田もうれしそうに「やりたいです!」と子犬のような笑顔を見せた。

菅田は、『共喰い』の後、俳優業について襟を正したそうだ。「新たな目標も見つかり、頑張ろうと、すごく思いました。生き甲斐というか、指標のようなものが改めて見えてきたんです」。青山監督も「僕にとっても、いろんな意味で転機となりました」と手応えを口にした。「今までやったことがないことも、今までやってきたことの延長線上のことも、色々と開花したと思えることがけっこうありました。充実した作品になっていると思います」。そう語ったふたりの、エナジーと達成感に満ちあふれた表情が忘れられない。【取材・文/山崎伸子】

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