リリー・フランキー、両極端な2作で見せた“真価”

インタビュー

リリー・フランキー、両極端な2作で見せた“真価”

リリー・フランキー出演の話題作が、『凶悪』(公開中)、『そして父になる』(9月28日公開)と、2本立て続けに公開。この2作で、リリーが演じるのは、おぞましい連続殺人事件の首謀者役と、3人の子供を持つ町の電気屋の親父役で、その180度振り幅のある役柄には思わずのけぞる。どの映画でも、きっちりと際立つ彼の個性に注目したい。

リリー・フランキーの肩書といえば、イラストレーターを筆頭に、エッセイスト、小説家、絵本作家、アートディレクター、デザイナー、ミュージシャン、作詞家、作曲家、構成作家、演出家、ラジオナビゲーター、フォトグラファー、そして俳優と、まさに八面六臂の活躍ぶりだ。彼の演技力は、映画初主演作『ぐるりのこと。』(08)で45歳にして第51回ブルーリボン賞を最高齢で受賞するなど、すでにお墨付きだが、今年は上記の2本での助演が素晴らしい。

『凶悪』は、ノンフィクション「凶悪 ある死刑囚の告発ー」の映画化作品で、死刑囚の告発を基にした緊迫感あふれるサスペンスだ。山田孝之扮する雑誌ジャーナリストが未解決の殺人事件を暴いていくという筋書きで、タイトルどおり“凶悪”を具現化したような男が登場する。NHK朝の連続テレビ小説「あまちゃん」のピエール瀧が殺人の実行犯となるが、“先生”と呼ばれるリリーの役どころは、直接手を下さずに人を殺していくという点が“凶悪”の極みである。薄ら笑いを浮かべる表情には、思わず背筋がゾッとする。

『そして父になる』では、福山演じる鼻持ちならないエリートの主人公・良多と対極にある、がさつだが子煩悩な父親・雄大役を好演。彼は3人の父親ということで、子供と絡むシーンが多いのだが、子供を何気なく抱きかかえたり、一緒に遊んだりするシーンは、自然体そのもので、“演者”だということを全く感じさせない。この雄大が肩肘張らずに、ごく普通の日常を楽しく過ごしていることで、勝ち組でいるはずの良多の孤独感や葛藤がより一層浮き彫りにされていく。

『そして父になる』の是枝裕和監督は、インタビューでリリーのすごさを“化物”だと絶賛した。何よりもリリーが助演として秀でているのは、主演俳優陣とのバランスである。存在感を特別に主張するわけでもなく、ただ物語に溶け込み、役柄として存在する。主役を食うこともなく、絶妙な距離感を保ち、しかも彼の味わい深い表情は見終わった後に強烈なインパクトを残す。2013年は、改めて、俳優リリー・フランキーの真価が発揮された年となった。【文/山崎伸子】

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