長澤まさみ&岡田将生の過去を乗り越えるコツは?「悲しみは消さなくて良い」
数々の監督に愛され、着実に役者道を歩んでいる長澤まさみと岡田将生。2人が共演を果たすのが、人気漫画家・いくえみ綾(りょう)の初めての映像化作品『潔く柔く きよくやわく』(10月26日公開)だ。柔らかな陽だまりのような笑顔と、内に秘める芯の強さを感じさせる彼らに、ぴったりの美しいラブストーリーに仕上がった。そこで、長澤と岡田を直撃。お互いの印象から、悲しみを乗り越えるコツまでを語り合ってもらった。
本作は、心に深い傷を持った2人が出会い、愛を育んでいく姿を通して、喪失感の先にある“希望”と“再生”を描く物語だ。長澤が演じるのは、15才の夏に幼なじみを亡くし、恋をすることができなくなった女性・カンナ役。岡田が、小学校時代に同級生と事故に遭い、自分だけが生き残った男性・禄役に扮している。
原作は295万部を越える大ベストセラーだが、「もともと原作のファンだった」という長澤には、ファンだからこその葛藤があったようだ。長澤は「自分自身、すごく好きな作品だったので、お話をいただいた時には『私じゃない方が良いんじゃないかな』と思ったりして。でも私は、どんなに辛いことがあっても、生きるのをやめないで前に進んでいるカンナという女の子が大好きで。その前向きな姿に後押しをされて、頑張ってみようと思いました」と、振り返る。
あまりにも重い過去を抱えた主人公たち。日常の笑顔のなかにも、ふとさみしげな表情がのぞく。「それがカンナの代名詞のようなところがあるので、その点はずいぶん意識しました。心の動きが、体や目の動きからも伝わるように、丁寧に演じて。漫画を教科書にして、ファンだからこその、私なりの誠意を込めて演じていました」と長澤。一方、「カンナと出会うことで、禄は悲しみを少しずつ出せるようになっていく」と、変化を大事に演じたというのが岡田だ。なかでも、禄が口にする「(罪悪感は)なくならないよ、そんなもの。一生、抱えて生きてくんだよ。」というセリフが印象に残っているという。「まさにそうだなと思うんです。自分でもそういうことが多々あるし、きっと誰にでも、抱えているものはあるはずだから。それをストレートに言える禄って、良いなと思うんです」。
「ストレートな部分って、生きていくうえで確実に必要なこと。どうしても歳をとると、真っ直ぐにものを言えなくなってくる。禄には、憧れる部分がたくさんあった」と岡田。いくえみ綾の描く男子像は、“いくえみ男子”と呼ばれるほど絶大な人気を誇るが、原作ファンの長澤は「岡田くんは、見るからに“いくえみ男子”!岡田くんって、少女漫画に出てくる男の子の顔をしているよね。いくえみ先生の作品をもっとやれば良いのにと、勝手に思っています」と太鼓判。これには岡田も、「本当に!?」と嬉しそうな笑顔だ。
長澤は「男と女って、噛み合わない部分や、考え方が違う部分もたくさんあるけれど、お互いに受け入れ合うことができるもの。禄とカンナは、相手が何かを出したら、一方がそれを受け止めるというように、会話がちゃんと噛み合っている」と、2人が惹かれ合った理由を分析するが、長澤と岡田の会話のリズムも心地良いほどにぴったり。お互いの印象を聞いてみると、岡田は「長澤さんには、常に笑顔の印象があるんです。だから現場も、ものすごく明るくて。でも、たま~に毒があるんですよね」とニヤリ。長澤も「そうなんだよね」とうなずくと、岡田は「そこが、そうであってほしいなと思っていた部分で。ずっときれいなことしか言わない人は、信用ならないですから。たまに出てくる毒が、また素敵だなと思いました」と長澤の魅力を語る。
“笑顔の人”と評された長澤は、「岡田くんは、本当に愛されキャラで。岡田くんが話すと、みんな笑顔になる。どこに行ってもいじられるのって、うらやましい!」と話して、2人で大爆笑。「だから、撮影現場が明るかったのは、私がいたからじゃなくて、岡田くんがそういう人だからだと思う」と続けるように、この日も2人の周りは温かな笑顔で満ちていた。
美しいラブストーリーであるだけではなく、人が悲しい過去と向き合う姿をしっかりと映し出す本作。最後に、それぞれの悲しみを乗り越えるコツを聞いてみた。岡田は「悲しみは、残っていくものなんじゃないかな。残っていくなかで、どう生きるかを考えることが大事で。悲しみは消さなくても良いと思うんです。それも自分の一部として、どこかに持っていていれば良いと。禄を演じたことで、そう考えられるようになったのかもしれませんね」。長澤は「岡田くんが禄のようなことを言ってくれて、とてもその言葉に納得しちゃいました。傷も辛いことも、悲しいことも、きっと消えないですよね。でも人間って、そればかりを考えて生きているわけじゃない。人生って、楽しいことがあふれている日々だと思うから」と、力強く話す。
『潔く柔く きよくやわく』は、人と関わり、悲しみをさらけ出せる相手に出会うことで、きっと人は未来を見つめられるはずだと教えてくれる。「人は一人では生きていけないですから」と岡田。長澤も深くうなずく。是非とも、2人の紡ぐ胸キュンのストーリーから、前を向く力を感じてほしい。【取材・文/成田おり枝】