西島秀俊が初のアクション映画「トム・クルーズがうらやましい」
西島秀俊が、『ゲノムハザード ある天才科学者の5日間』(1月24日公開)で本格的アクションにトライ。演じたのは、何者かによって記憶を上書きされた天才科学者役で、自らに降りかかった事件の真相に迫っていく。西島は、2つの人格に翻弄されるという難役で、ハードなアクションや、韓国語のセリフと、いくつかのハードルを乗り越えて主人公を熱演。西島にインタビューし、撮影秘話を聞いた。
原作は、第15回サントリー・ミステリー大賞読者賞を受賞した司城志朗の同名小説。会社員の石神武人(西島秀俊)がある日帰宅すると、自分の妻(中村ゆり)が殺害されていた。動揺する彼が、突然鳴った電話に出ると、それは妻の声だった!その後、警察と名乗る男たちに追われる石神だが、気がつけば頭の中に、韓国人の天才科学者、オ・ジヌという別人の記憶が混在するようになっていく。
複雑な設定の役柄に、西島はどう挑んだのか。「2つの人格がはっきり分かれているわけではなく、微妙に混在しているんです。はっきり出ているシーンもありますが、台本上は出ていないシーンがほとんどです。なので、右利きにするのか左利きにするのかとか、立ち方や走るスピードとか、そういったことを具体的に決めていきました。韓国語の勉強も必要でしたね」。
逃走劇ということで、全力疾走するシーンも多い。アクションについては、どういう準備をして臨んだのだろうか?「常に体は動かしています。役に合わせて体重も含め、イメージしたものに近づけるという作業です。例えば役柄で、キックボクシング的な要素が必要なら、そういうトレーニングをしますし。ただ今回は、あくまでも普通の人が、思いの強さで奇跡を起こし、ギリギリで逃げていく話にしたいと監督から言われたので、普通を意識しました(笑)」。
メガホンを取ったのは、『美しき野獣』(06)の韓国の俊英、キム・ソンス。西島いわく、求められたのは「アクションの華麗さで、ストーリーが進んでいくのではなく、常にストーリーとつながっていくアクション」。「記憶がどんどんおかしくなっていき、自分の家もわからなくなっている男が、プロの集団に追われ、それをかいくぐって逃げる、そういう説得力がほしいと言われました。だから、普通に走るシーンもそうだし、金網から落ちる時も、きれいに落ちるのではなく、引っかかって落ちる。そういう動きになりました」。
西島は、アクションは常に、できるものなら全てをこなしたいと熱望する。「単純に、トム・クルーズがうらやましいです。僕もドバイのビルを登ってみたいです」。ドバイのシーンとは、『ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル』(11)で、160階建ての超高層ビル、ブルジュ・ハリファを、トムがスタント無しで、決死のダイビングを披露した名シーンのこと。西島は「危険な撮影もどんどんやりたいです。主演だと、アクションは全部自分でやるとか、腕一本くらい折る気で来ています、ということが言いやすいです」と、無邪気な笑顔を見せる。
それにしても、42歳で初めて本格的なアクション映画にトライするというのはあっぱれだ。「正直、僕は今、20代の時よりも体が動きます」と目を輝かせる西島。「日常でもトレーニングをしていますし。やっぱり『CUT』(11)の(アミール・)ナデリ監督と知り合ってから、精神的にもすごく充実しています。毎日、とにかく限界までやり切って過ごすということをやっていくと、自分の容量が増えていく気がします。あの人は60いくつであのエネルギーをもっている。映画は、自分の全存在をかけて向かう価値があるものなんだと、身をもって示されていました」。
今回もキム・ソンス監督から刺激をもらったようだ。「苛酷な撮影が多かったです。キム・ソンス監督もテイクをすごく重ねる方でしたし。でもそれは、僕にとってはありがたいことで、俳優やスタッフに対して監督が期待しているってことで。それだけ純粋に良い映画を撮りたいという監督ですね。そういう方と仕事をすると、アドレナリンが出るのが自分でもわかります。だから僕は、情熱と面白い脚本があれば、予算も国も、監督のキャリアがなくても関係ありません」。
言葉の端々から、映画への情熱と、飽くなきチャレンジ精神が伝わってきた西島秀俊。常に映画に対して誠実に向き合う姿勢が、映画ファンの心を鷲づかみにする。日本と韓国の合作映画『ゲノムハザード ある天才科学者の5日間』で、またアジアのファンが急増するに違いない。【取材・文/山崎伸子】