『アナと雪の女王』の魅力的キャラクターにふりかけた、ディズニーだけの“魔法”って?
第86回アカデミー賞で長編アニメーション賞と主題歌賞の2冠を達成した『アナと雪の女王』が、いよいよ3月14日より公開される。創立90周年を迎えるディズニー映画に、“金字塔”と呼ぶにふさわしい、新たな名作が加わった。「真実の愛を、これまでとは違った形で描きたかった」と声をそろえるのは、共同で監督を務めたクリス・バックとジェニファー・リー。21世紀のディズニーが打ち出す“真実の愛”とは?そして、魅力あふれるキャラクターを作り出すために、製作陣がふりかけた魔法とは?両監督に聞いた。
本作は、触れたものを凍らせる力をもち、心を閉ざしてしまった姉・エルサと、彼女を救おうとする妹・アナとの愛を描く物語だ。アンデルセン童話の「雪の女王」からインスピレーションを得ているが、リー監督は「アンデルセンの『雪の女王』は、贖罪の物語という要素が強いの。そこから、もっと、愛というものの本質を学んでいく物語にしようと考えて、いろいろとストーリーを練っていったわ」と述懐。主人公は、ディズニー初のダブルヒロインとなったが、「アナが様々な形の愛を追っていくストーリーにしようと思った時に、主人公は姉妹にしたらどうか?というアイディアが生まれた」という。
ディズニー長編初の女性監督となったリー監督。さらにこう、熱弁する。「アナは、盲目的で『恋ってこういうものよね!』と恋心を走らせてしまうような女の子。でも本当の愛って、ロマンティックに見える恋とはまた違ったものだったりするでしょう?究極の愛というのは、自分を犠牲にしてまでも守りたい、“絆”のことだと思うの」。
ダブルヒロインであるアナとエルサのコントラストが、見事に表現されているが、バック監督は、「彼女たちは姉妹だから、モデリングという意味では、実は同じ骨格を使っているんだよ」と明かす。「エルサは自分の力を恐れているキャラクター。かたくなで感情を表に出さないという姿を、“常に姿勢が良い”という表現で表してみたんだ。一方のアナは、ドタバタとしていて、常に動きがあるタイプだね」。
リー監督は、「アナという女の子の鍵となるのは、普通の女の子であるということ。優雅だったり、完璧に物事がわかっているような女の子ではなくて、考える前に行動に移してしまって、それだけにすぐに失敗をしてしまう女の子なのよ」と笑う。「けれども、とても強いハートを持っている。私は、アナのこういうところが大好きなの!普通の女の子が、愛を武器に戦うんですもの。素敵でしょう?」。
生き生きとしたキャラクターの表情や動きに、思わず目を奪われる。CGアニメに命を吹き込むには、どんな“魔法”があるのだろうか?70年代からアニメーターとしてディズニー作品に関わってきたベテランのバック監督は、「アニメーションを手掛けるスタジオとしては、ディズニーが唯一と言っていいかもしれないのだけれど」と口火を切り、こう教えてくれた。
「ディズニーでは、手描きのアニメーターとCGのアニメーターが一緒に仕事をできるようにしている。優秀な手描きのアニメーターが、まだたくさん残っているんだよ。なかでも、クラシックと呼べる名作を手掛けてきたマーク・ヘンの仕事は重要だ。彼は毎日、アニメーターたちが上げてきた絵を見ながら、コンピュータ上をなぞるように、手描き感を加えているんだ。それによって、マシンだけでは絶対にできない表現を可能にしていると思うよ」。するとリー監督も「私たちにとって大切なのは、リアリズムじゃないの。人の肌触りをプラスして、いかにリアルを感じてもらえるかということが、最も大事なのよ」とニッコリ。
世界中で愛され続けているディズニー作品。ふたりからも、ディズニーで働くことへの誇りがみなぎる。バック監督は、「僕が子供の頃に、初めてディズニー映画を見たのは『ピノキオ』だった。ジェニファーは『シンデレラ』だったよね。小さい頃から大好きだったディズニーで仕事ができるなんて、本当に光栄だと思っている」とうなずく。「名作がたくさんあるスタジオだから、新しい作品を作る時のハードルはとても高い」と苦労もつきないが、「そんな時は、過去の作品にあまりとらわれないようにしているんだ。自分たちなりに、新しい、フレッシュなものを作る努力を忘れないことが大事だと思っているよ」と、真っ直ぐに前を見つめていた。
そして「ディズニーのスタジオは、ジョン・ラセターとエド・キャットムルが率いるようになってから、さらに素晴らしい場所になったんじゃないかしら」とリー監督。「彼らは、クリエイティブな作業を常にサポートしてくれる。今回は、ちょっとスケジュールがキツかったんだけれど、『まず大事なのは、ストーリーだ』と言って、最高のストーリーを作るための時間をしっかりと与えてくれるの。そういった支えというのは、ハリウッドの映画業界ではなかなか望めないこと。そういったスタッフ同士の支えがあるからこそ、本作も完成させることができたのよ」。【取材・文/成田おり枝】