ポール・ポッツが明かす、人生で一番のどん底。幸せをつかむキーワードとは?

インタビュー

ポール・ポッツが明かす、人生で一番のどん底。幸せをつかむキーワードとは?

2007年、携帯電話ショップの販売員だったポール・ポッツが、イギリスのオーディション番組で華麗なオペラを披露して優勝した。自信なさげにステージに現れた彼から、歌声があふれ出した瞬間。その感動を忘れられない人も多いのではないだろうか。このたび、ポッツの波乱の物語が映画『ワン チャンス』(3月21日公開)となって登場。そこで、来日したポッツ本人と、デヴィッド・フランケル監督を直撃し、オーディションまでの苦難、そして、チャンスをつかんだ秘訣を語ってもらった。

自身の人生を映画として振り返ってみた感想を聞くと、「普通、ある人の人生を映画化するのって、その人が死んだ後だよね」と大きな笑顔を見せたポッツ。「自分の人生を映画で見るのは、とても不思議な気持ちだったけれど、映画は本当に素晴らしかった。たくさん、たくさん笑ったよ。どんな映画にするかは、監督のチームにお任せだったんだ。でも唯一、『コメディにしてほしい』という希望を持っていた。見終わったお客さんに笑顔になってほしかったからね」。

メガホンをとったのは、『プラダを着た悪魔』(06)のフランケル監督だ。フランケル監督は「彼の人生に惹かれた理由は二つある」と明かす。「まず一つには、携帯電話の販売員が、実は国際的な歌手になる才能を秘めているというのは、やっぱりとてもワクワクすることで。人生が一瞬にして変わってしまうという“魔法”を感じることができる。そして、彼がなぜスターになれたのかを考えると、奥さんの彼への愛が最も重要だったと思うんだ。そういった、彼の人生の持つラブストーリーとしての側面も、とても魅力的に感じたんだ」。

その言葉通り、本作で描かれるのは、いじめられっ子だったポッツの少年時代から、彼にとって初めての理解者である妻との出会い。そして、運命のオーディションまでの出来事だ。失敗や大病、交通事故など、オーディションまでに、ポッツを襲った連続的不運が明らかとなる。フランケル監督は「ポールは、どんな時でも笑う力を持っている人」とポッツを分析。それだけに、劇中ではあらゆる苦難が、ユーモアと愛を持って映し出される。「どんなつらい時にも笑うことができる、乗り越えられるという資質があるからこそ、劇中に大いに笑いを取り入れていこうと思ったんだ。最も大きな苦難である自転車事故の瞬間が、一番笑えるシーンになっているんだよ」。

ポッツは、「そう。交通事故に遭った時は、一番のどん底だった」と述懐する。「僕にとって一番つらいのは、自分をコントロールできなくなることなんだ。というのも、少年時代にずっといじめられていて、当時は自分をコントロールすることができなかった。なんとか自分をコントロールできるようになりたいとずっと思ってきたけれど、事故に遭った時は、いじめられていた時のように、まったく無力になってしまって。一度は歌もあきらめかけて、『大親友が死んでしまった』という気持ちになったよ」と、人生に対して消極的になってしまったこともあったとか。

続けて「でも、まだ大親友が死んでないことに気づけたんだ」とニッコリ。「とにかく、どんな時だって進むことが大事なんだ。僕がそう考えられるようになったのは、奥さんのおかげ。奥さんと出会って、『僕は、誰かのために進まなければいけないんだ』と思えたんだよ」と、苦難を乗り越える鍵は、「愛だ」と断言する。

「自分の本音を正直に表すことができるのが、僕にとってのオペラ」とポッツ。本作に登場するオペラの名曲も、すべてポッツが吹き替えを担当した。レコーディングの際、最もエモーショナルになったのは、「結婚式で歌うシーンだよ。誓いの言葉を思い出して、涙が出そうになった」とここでも妻への愛情を吐露。「実際、結婚式では奥さんに歌を披露したんだ。あれは僕にとって、一番の大事なステージだった。自分をすべてさらけ出したような気持ちになったよ」。そして、話は運命のオーディションの瞬間へ。「あの時も自分をさらけ出したよ。コスチュームもつけずに出演するのは、迷子になったような気もしていた。でも、それこそが僕の進むべき道だったんだよね」。

「どんな映画の主人公だって、どん底を知らなければ、光の方に歩いていけないだろう?」とフランケル監督。苦難と波乱の人生の舞台裏には、“本当の自分”を信じてくれる存在があった。ぜひ本作で、温かな感動を味わってみては。【取材・文/成田おり枝】

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