湊かなえ、「告白」や「白ゆき姫殺人事件」執筆の裏話を語る!
第6回本屋大賞受賞作「告白」で脚光を浴び、コンスタントに小説を発表してきた人気作家・湊かなえ。『告白』(10)、『北のカナリアたち』(12)に続いて映画化された『白ゆき姫殺人事件』(3月29日公開)にも熱い視線が注がれている。その公開を前に、原作者の湊先生にインタビュー。緻密な構成で、思わず息を飲むような心の闇を描いてきた湊先生だが、素顔のご本人は、あの衝撃的な作品群からは想像もつかない、朗らかでチャーミングな女性だった。
本作は、化粧品会社で働くOL城野美姫(井上真央)が、ある日、美人の同僚・三木典子(菜々緒)の殺害の疑惑をかけられ、さらにインターネットやマスコミの過剰な報道により、とことん追い詰められていくという物語。いろんな証言者の目を通した人格の違う美姫役を、井上真央が熱演した。まずは湊先生が、この物語を書こうと思ったきっかけから聞いてみた。
「ちょうど『告白』の映画がヒットした時、知らない間に近所の人や地元の知り合いが、私についての取材を受けていたんです。その時は、みなさんが良いことばかりを言ってくださったから良かったけど、もしこれが殺人事件に関わるなど悪い内容だったとしたら、何を言われるだろうと思って、すごく怖くなりました。また、“自分が思う自分”と“人が思う自分”は、どれくらいかけ離れているんだろうと考えたりもして。普段、友達同士で思い出話をしていても、覚えているポイントとかが違ったりするし、よく知っている人同士でも、同じ画が見えてない場合ってあるのかなと思ったんです」。
今回も含め、ご自身の小説が映像化される場合、湊先生はどういうスタンスで受け止めているのだろうか?と聞くと「いちばん楽しみにしているお客さんです」と答えてくれた。本作のメガホンをとったのは、『ゴールデンスランバー』(10)の中村義洋監督だが、今回は企画書と共に、パイロット映像のDVDを渡してくれたそうだ。「それは監督が撮ってくださったイメージ映像でした。赤星(綾野剛)と里沙子(蓮佛美沙子)が電話をしている場面に、twitterの文字がわ~っと出る。10分弱でしたが、見たら続きが見たくなり、映画が楽しみで仕方なかったです」。
実際に、キャスティングをはじめ、完成した映画に太鼓判を押す湊先生。「最初は、明るいイメージの井上さんが、地味な美姫役を演じることは想像できませんでした。でも、最初にロケ見学をした時、井上さんが本当にオーラを消していてびっくりしました。今回は、証言者の数だけいろんな美姫がいるという設定で、それらをちゃんと演じ分けられていて感心しました。また、菜々緒さんはモデルをされていたからか、死体のシーンでは動いてないのにすごく存在感やオーラがあってすごいなあと思ったし、綾野さんはクールで格好良い役が多いのに、今回はダメ人間がハマっていました。みなさん、良かったです!」。
いちばん聞きたかったのは、人の心の闇をどう紡いでいくかという話だ。いろんな人のエピソードをかき集めるのですか?と尋ねると、先生は笑いながら「かき集めませんよ。自分のなかに溜まっているものを抽出する、結晶化するという作業です。どんどん平和な部分を削いでいく。今、平和でいられるのは、平和な環境が周りにあるからであり、何をされても笑っていられるのかというとそうじゃない。平和な部分を削ぎ落としていって、ひとりだけで暴走していったらどこまでいくかを考えていくんです」。
常に登場人物に成り切って執筆するという湊先生。もちろん、窮地に立たされていく人物を書いていくのは、とても辛い作業だそうだ。「辛い状況に入り込む時は本当に辛いです。『告白』を書いてる時は、鼻血が出たし、それくらい思いつめていた気がします。ただ、私の場合は、ぎゅっと入り込むけど、その後に戻れるところがあるからこそ入り込めるのかなとも思っています。入り込んでみなきゃわからないことを見てみたいという欲求をいつも強くもっているのかもしれない」。
最後に、これから映画を見る人へのメッセージをもらった。「見たことがない映像がいっぱいあって、新鮮な驚きがあると思います。twitterの文字が現れて消えていくタイミングもちょうど良くて、ちゃんと映像と一体化しているんです。きっと裏では緻密な計算があったと思いますが、見る側はそれが見えないから、本当にただただ面白かったです」。
「見たことを後悔させない自信があります」と映画を猛プッシュする湊先生。そのひまわりのように明るい笑顔を見ているだけで、いかに先生が作品を気に入っているのかが伝わってくる。前2作の映画の公開時もそうだったが、『白ゆき姫殺人事件』が封切られたら、また湊かなえファンが増殖するに違いない。原作ものの映画化としては、いちばん理想的な形である。【取材・文/山崎伸子】