常盤貴子、大林組は「幸せな現場の裏には緊張感」と充実感を語る
明るくて凛とした女優。それが常盤貴子の印象だ。近年、舞台でも活躍の場を広げ、映画ではアミール・ナデリ監督作『CUT』(11)、ビセンテ・アモリン監督作『汚れた心』(12)と、海外の映像作家の作品に挑んできた。最新出演作は、念願叶っての大林宣彦監督作『野のなななのか』(5月17日公開)で、謎めいたヒロインをしなやかに演じている。常盤にインタビューし、初の大林組に参加した感想を聞いた。
『野のなななのか』は、大林監督の前作『この空の花 長岡花火物語』(11)の姉妹編という位置づけの作品だが、それが今回の縁をつないだようだ。「デビューしたての頃、『好きな監督は?』と聞かれて『大林宣彦監督です』とお答えした記事を、大林監督が読んでくださっていたそうで。これまでに何度かオファーをしてくださったみたいなのですが、なかなかタイミングが合いませんでした。それで、3年前、『天地人』(NHK大河ドラマ)のご縁で、長岡の花火大会に呼んでいただいた時、大林監督もいらっしゃっていて、初めてお会いできたんです。まさに、『いまがタイミングだった!』と思えるような出会いでした」。
“なななのか”とは、生と死の境界線が曖昧な四十九日のこと。舞台は、雪の北海道芦別市。古物商を営む元病院長・鈴木光男(品川徹)の葬儀をきっかけに、彼と関わった女性や彼の家族が顔を合わせ、それぞれの人生の光と闇がひも解かれていく。その人間模様を通し、人の人生を狂わせる戦争をも断罪する。常盤は、16歳から光男と共に過ごしたミステリアスな女性・清水信子役を演じた。
常盤は、16歳の若き日の信子役も可憐に演じている。演じた感想を尋ねると「死にそうでした。助けてえ!と思いました」と苦笑い。「ティーンエイジャーの役をやったのは、何年前にやったとかカウントできないくらい昔ですね(笑)。最初は耳を疑いました。でも、そこは大林監督のファンタジーを信じるしかないと。監督の映画で、いろいろなすごいものを見てきているので、それを信じてやりました」。
また、信子役について、全体を通して「これは大変だなと」と感じたという常盤。「それで、あまり自分というものを出さず、流れに沿うというか、たゆたう感じでできれば良いなと思いました。すごく難しい役で、答えを出そうとしてしまう。でも、そういうふうに見てしまうともったいない役。最後までずっとわからないほうが良い。この役について考えてほしいと思いました」。
常盤は「考えなくなってしまうことは、すごく怖いことだと最近思い続けてきました」と言う。「はっきりした答えを求められることに、最近すごく嫌気が差しています。答えがないことにみんないらだちを覚え、意味がわかんないと投げてしまう。だから、どんどん会話もなくなっていく。それに慣れてしまったらおしまいだから、もっと考えて、みんなで話し合ってほしいと思います。わからないことってずっと残るし、映画として、ミステリアスな部分はすごく重要だとも思うから」。
初の大林組の印象は「スタッフの方も含め、みんな笑っているし、こんなに幸せな現場はないというくらい幸せでした」とのこと。「でも、その裏では緊迫感もちゃんとあるんです。俳優に対してもスタッフに対しても、大林監督は任せてくれるけど、それは『プロとしての君の技を見せて』ってことだから、ものすごい緊張感はありました。だからこそ、共演した俳優さんやスタッフさんは、いま出会えて良かったと思える方々ばかりで。この現場をベースに私も変わっていけると思うと、大きな出会いだったと思います」。常盤貴子の大きな瞳は充実感にあふれていた。【取材・文/山崎伸子】