『私の男』が原作と映画で構成を変えた理由に、直木賞作家・桜庭一樹も納得!
桜庭一樹の直木賞受賞の同名小説を映画化した『私の男』(6月14日公開)。特殊な舞台設定から映像化は不可能といわれてきた本作だが、『海炭市叙景』(10)『夏の終り』(12)の熊切和嘉監督がメガホンをとり、浅野忠信と二階堂ふみによって遂に実現した。
家族を失った少女・花(二階堂ふみ)と、花を引き取った遠縁の男・淳悟(浅野忠信)の、16年にわたる禁断の愛が描かれる本作。オホーツク海に面した北海道・紋別で暮らすふたりを気にかけ、長年面倒を見てきた町の名士・大塩(藤竜也)が厳冬の流氷の中で殺される事件が起こり、彼らは逃げるように東京へ向かうというストーリーだ。
映像化が困難と言われた理由のひとつが、この物語で欠かすことのできない“流氷”だ。自然の力にゆだねるしかなかった流氷シーンの再現だが、熊切組はかなりの好条件で撮影がスタート。実際、撮影がはじまると、熊切組を待っていたかのような奇跡のタイミングで流氷が紋別に接岸したという。それでも日々の撮影は簡単ではなく、満潮になる度に位置が移動してしまう流氷を、シーンの繋がりが損なわれないよう毎朝スタッフが形を整え撮影。「どうしても35mmフィルムで収めたかった」という熊切監督のこだわりとスタッフの努力が生んだ壮大で迫力の流氷シーンには、圧倒されること間違いなしだ。
一方、原作とあえて構成を変えた点が、“時系列に沿ったストーリー展開”だ。原作では、時系列を未来から過去にさかのぼり、語り手が時代によって変わっていく複雑なストーリー構成になっているのだが、熊切監督と脚本家・宇治田隆史はそこをあえて過去から未来へと順を追う構成に。脚本を読んだ原作者の桜庭も、「原作をそのままやるとゴチャゴチャしてしまうところがすごく整理されているな、と感じました。小説では、主人公ふたりを一人称で書くことで感情移入しづらいはずの関係に思い入れを持って読めるようにしたんですが、脚本はふたりから距離を置いて“現象”を見るという形で作られているように感じたので、同じストーリーだけれど違うアプローチで面白いなと思いましたね」と太鼓判を押すほど、納得の仕上がりのようだ。
先日、第36回モスクワ国際映画祭コンペティション部門に出品が発表され、ますます期待が高まる本作。ちなみに現在、新宿ピカデリー限定で、ソファに座る浅野とその膝に頭を乗せる二階堂の距離感がただならぬ関係を予感させる新ビジュアルを掲出中。こちらも、ぜひ劇場に足を運びチェックしておきたい!【Movie Walker】