『バイオハザード』のアンダーソン監督、「レーザーで人を切り刻むより興味の持てること」とは?
『バイオハザード』シリーズで知られるポール・W・S・アンダーソン監督が次に手掛けたのは、火山噴火によって失われたローマ帝国の街・ポンペイを舞台に描くスペクタクル・ロマン『ポンペイ』(6月7日公開)。SFアクションの大ヒットメーカーである彼が、なぜ今、歴史大作を撮り上げたのか。そこには、妻で女優のミラ・ジョヴォヴィッチの愛と支えがあった。
保養地として栄えた古代都市・ポンペイがヴェスヴィオ火山の大噴火によって地中に埋没したのは、西暦79年のこと。本作は、有史以来最大の大自然の猛威と、それに翻弄されながらも真実の愛に生命を賭けた男女の姿を壮大なスケールと迫力の映像で描く物語だ。
そもそも、アンダーソン監督がポンペイに興味を持ったのは、幼少期のことだという。「僕は北イングランド育ちで、ローマ帝国の北辺にあたる“ハドリアヌスの壁”のそばに住んでいたこともあって、小さな時からローマの文明・文化にとても惹かれるものがあったんだ。なかでも、わずか24時間にして強大な文明を誇った街が失われてしまったというポンペイの災害は、圧倒的に心に残る事件だった」。
人々は灰の中に埋もれたが、肉体が朽ちた後もその空洞は残った。今では、その空洞に石膏を流し込んでできた石膏像として、その悲劇を私達に伝えている。「僕がその石膏像を見たのは、7歳の頃。威厳を持って死に相対している人、恐怖に身をかがめている人、恋人の目を見て亡くなった人。それぞれのストーリーを感じて、ずっと心に残っていた。いつか描きたいと思っていたテーマだったんだよ」。
劇中に登場するキャラクターも、石膏像をもとにイメージを膨らませた。「キーファー・サザーランドのキャラクターは、恐怖に身をかがめる人。恋人達の石膏像は、主人公の2人というふうにね。ポンペイの噴火で生き延びた方というのは、何かおかしいと思った瞬間に逃げ出した人だったんだ。劇中でも、噴火の過程を正確に再現したんだけれど、地震、稲妻があったり、太陽が黒雲に覆われたのも事実。実際にそんな状況に置かれたら、みんな焦って逃げるよね。だけど逃げなかった彼らには理由があり、それは欲、復讐心、そして愛だったんじゃないかと想像したんだ」。
幼少の頃からの思いが成就したのが本作というわけだが、「僕にはSF的な作品のイメージが強いからね。僕だって、『史実を扱った映画を作れるんだ』と言いたかったのもある」とニッコリ。さらに「なぜ今、このテーマに挑んだのかという理由には、僕自身の心の成長も大きく関係している」と明かす。「10年前は、レーザービームで人をバラバラに刻むことに興味があったけれど(笑)、僕も今は妻と子どもを得て家庭人になった。今は以前よりもっと、生きるため、愛のために戦う人に興味を持てるし、映画作家としても普遍的な愛を描くタイミングが来たと思ったんだ」。
「ミラは、僕の大事なサポーター。ミラもこの映画が大好きなんだよ」と嬉しそうに語るアンダーソン監督。その愛は、主人公の剣闘士・マイロ役のキット・ハリントンのキャスティングにも影響を及ぼしている。「ミラにTVシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』を見ろって言われてね。『すごいイケメンがいるから』って(笑)。面白くて一気に見てしまったんだけれど、なかでも抜きん出ていた映画スターこそ、キットだった。そしてキットが、生き物や自然ととても深い絆を持てる人だというのも、キャスティングの理由だ」。
続けて「実は、僕は馬アレルギーでね」と苦笑い。「マイロが厩舎の中で馬を手なずけるシーンは、すべてキットにおまかせだった。荒れている馬にはどう対応したら良いのかもすべて彼が教えてくれて、彼の経験のおかげで美しいシーンを作り上げることができたよ」と彼に感謝しきり。ムキムキの腹筋、たくましい腕でヒロインを抱きしめるキットのイケメンぶりはミラのお墨付き!日本でも人気に火がつきそうだ。
機が熟し、「普遍的な愛」に挑んだアンダーソン監督。最後にはこう、メッセージを送ってくれた。「自然の猛威の前では、テクノロジーは無力なもの。そこで助けになるものは、人間の持つ強さ、頼れる家族、友人、そして自身の尊厳なんだと思う。それはローマ時代も現代も、まったく変わらないことなんだ。本作に登場する誇り高き人々の姿は、この先もずっと人々の心を打つものだと思うよ」。【取材・文/成田おり枝】