松山ケンイチと蒼井優が語る、木村大作監督から教わった大切なこと
黒澤明監督など数々の名匠と組んできた名カメラマン・木村大作が、『劔岳 点の記』(08)に続く監督第2作『春を背負って』(6月14日公開)を放つ。主演を務めた松山ケンイチと、ヒロインを演じた蒼井優にインタビュー。雄々しい立山連峰での山岳ロケの話から、監督・木村大作についてのエピソードを2人に聞いた。
原作は、笹本稜平の同名小説。父の死をきっかけに、立山連峰にある山小屋で暮らすことになった長嶺亨(松山ケンイチ)の成長と親子愛を軸に、山を愛し、山に生きる人々との交流を丹念に描く。
松山は、木村監督について「嘘をすぐ見抜かれる。真っ直ぐな方が真っ直ぐに撮っている」という印象を受けた。「僕たち俳優が都合の良いように演技をしたり、集中しないでやっていると、たぶんばれてしまう。どう見せたいかというより、自分の今まで生きてきたものをそのまま出すように導かれていた感じです」。蒼井は木村監督作を「活動写真って感じがします」と表現。「真実を映すから、ごまかせない。だから、私たちキャストのほとんどがそうだったと思いますが、頭で考えた何かでお芝居をするのではなく、現場に身をゆだねて演じていました」。
映像には、前作同様に、圧倒的な大自然がおおらかに活写されている。松山は「フィルムのカメラ6台で同時に撮るなんてことができるの、大作さんだけじゃないかな。2台回すケースはあるけど、さすがに6台はない。ダイナミックで、普通の撮影現場とは違うから、驚くことが多かったです」と振り返る。蒼井も「6台もカメラがそこに集まること自体が奇跡」と同意。
蒼井はさらにこう続けた。「大作さんに、なぜ山に登るのかと聞いたら『予算がない俺たちは、体力を使うしかない。体力を使って山を登れば、どこを撮っても素晴らしい景色が広がっているから』とおっしゃっていて。確かに、山で自分が感動した風景が、そのままスクリーンに広がっている。それは誇張されてもいないし縮小されてもいない。すべて本物で、これだけの景色を映画館で見られるのは幸せだなと思いました」。
苛酷な山岳ロケだったが、俳優陣にとっては、とても意味深いものがあったようだ。松山は言う。「自然からもらえることがたくさんありました。普通に東京で暮らしていると、情報がいっぱいあって、頭がずっとフル回転している。でも、山はそういうものが一切ないから落ち着く。やっぱり僕たちは、自然のなかの一部でしかないと感じました。山を登ると、いろんな人生観が広がって、帰る時、また違うものをもらって降りてこられるんだなと」。
蒼井も山での共同生活で得たものはとても大きかったと語る。「すごく狭い場所で、お風呂もないような状態の場所で撮影をしました。でも、そうなると、自分がどんどん俳優であることや、年齢、性別など、付随しているものがどんどん取っ払われ、ただの動物対動物みたいな関係性になっていく。今回、貴重な経験をさせてもらいました」。
木村監督から得たものは大きかったという松山。「大作さんは、撮影で天気も左右してしまうんです。それって、たぶん大作さんが、(映画に)尽くしてきた分のお返しが、奇跡として叶えられているのかなと。大作さんが映画にぶつけてきた情熱みたいなもの、失敗や成功なども含めてですが、真っ直ぐに向き合っていれば、返ってくるものって確実にあるんだなと感じました。自分もどうせなら思い切りぶつかりたいし、本気になりたい。そういう生き方は、結果的に自分にとってすごくプラスになるし、幸せになれるのかなって思います」。
蒼井も木村監督について「これだけ日本映画に携わってこられた方でも、まだこんなに夢中になれるものなんだと思いました」と感動したそうだ。「もちろん、今回、大作さんの人生のほんの一部しかふれ合ってないけど、今までのことを惜しみなく教えてくださいました。人生の素晴らしさを、背中で見せてくださったなと。自分もああいうふうに、何かに夢中になっていきたいです」。
映画を愛し、人生を捧げてきたと言っても過言ではない木村大作監督。その熱い意志は、松山たちをはじめ、若き俳優陣にも受け継がれていく。『春を背負って』を見て、そのことを実感した。【取材・文/山崎伸子】