蒼井優も見た!松山ケンイチが、冬山で豊川悦司を担ぐ壮絶なシーン!!
松山ケンイチと蒼井優が、『劔岳 点の記』(08)の木村大作監督第2作『春を背負って』(6月14日公開)で共演。『男たちの大和 YAMATO』(05)で初共演し、『人のセックスを笑うな』(07)以来、5年ぶり3度目の共演を果たした2人にインタビュー。苛酷だった山岳ロケの裏話や、久しぶりに共演した感想について話を聞いた。
原作は、笹本稜平の同名小説。立山連峰の山小屋を舞台に、山を愛し、山に生きる人々の人生がつむがれるヒューマンドラマだ。松山は、父の死をきっかけに、山小屋で暮らすことを決めた主人公・長嶺亨役。蒼井は亨と交流するは高澤愛役、2人をサポートする多田悟郎役に豊川悦司が扮した。豊川について松山は「(撮影に)途中から参加されたけど、山小屋で寝泊まりする時、最初からすごくお酒を飲んで楽しそうにしていました」と言うと、蒼井も「本当にすっと場に溶けこむ方でした」と笑顔で語った。
いろんなところを放浪してきた自由人である悟郎がつぶやくセリフは、とても心に響く。松山はそのセリフについて「悟郎さんの言うことは、監督がこれまで生きてきたなかで感じたもの」と読み取る。「ある意味、大作さんの言葉を、豊川さんが代弁しているんです。また、豊川さんの雰囲気や生きてきた経験値があるからこそ、すごく説得力がある。完成した映画を見た時、すごく自分のなかに入ってくるなあと感じました」。
蒼井も「今回、キャストのみなさんがおおらかな方ばかりで、とても良かったと思います」と穏やかな表情を見せる。「特に私は、松山さん、豊川さん、檀(ふみ)さんとご一緒する時間が長かったのですが、お三方とも、仕事をとても大切にされている一方で、それとは別にもう1つ大切なものがあるような感じでした。だからこそ、仕事の世界で力を発揮できる。役者としても尊敬できるけど、人としても憧れる人たちに囲まれて3か月過ごせたのは幸せでした」。
木村監督は、黒澤明作品などで知られる日本映画界きっての名カメラマンだけあり、雄大な自然美を力強く活写している。でも、その分、ロケには妥協を許さない。特に、冬山で倒れた悟郎を背負って亨が山を降りるシーンは困難を極めた。松山自身「あのシーンは冬山のロケの一番大変なシーンだった」と振り返る。「あのシーンが上手くいけば、なんとか最後までいけるんじゃないかと思っていた、いちばんの山場でした」。
なかでも、豊川をかついだまま崖を降りるシーンには、思わず息を飲む。「崖を降りるのは、自分の力だけではどうしようもできなかった。ガイドさんや、優ちゃん、新井(浩文)さんと、みんなの力を借りました。その時は、役柄としてじゃなくて、自分が豊川さんをどうやって下へ降ろすかってことに必死でした。演技しているという感じじゃないなと。それがすごく面白かったです」。
同シーンでそばにいた蒼井も「人の命を預かるってことですから。こけたり、足を踏み外したりしたら、豊川さんの顔が岩にぶつかってしまう。いやあ、よくやったなあと思いますよ。見るからに大きい人を背負っているって感じでした」と感心しきり。松山も「最後は気合だけだったよね」と言葉をかみしめる。「でも、スタッフのみなさんは、常に重い機材を持って、雪山へ行っているわけだし。だからみなさん、“がまん”と書いたTシャツを着ていたんです」。蒼井も「そう。木村組のテーマが“がまん”でした」と笑顔で言う。
共演は3作目で、劇中だけではなく、息の合った受け答えをしてくれる2人。出会ってから10年の歳月が流れているが、松山は蒼井について毎回印象が異なると言う。「『人のセックスを笑うな』の時は、もっと静かな感じで、今とは対局にある、すごくとんがっている感じ、ふつふつとした感じを受けました。でも、今は開けてぱーっとなっている。『男たちの大和 YAMATO』の時は妖精みたいでした」。
蒼井は「そうかもしれないってことは自覚しています。だって、今回、初めて、ちゃんとお話をさせてもらったから」と苦笑い。「松山さんはもっと最初はギラギラしていた。『男たちの大和 YAMATO』って、戦争の話で、命がテーマな作品だったからかもしれないけど。すごく熱いものがあったというか。10年経ったら、とても穏やかで幸せそうだなって感じがしました」と、今の印象について語る。
松山は「まあ、10年経ったら変わるよね。でも、今でも熱いものは持っているんだよ。一応」と突っ込む。それを受け、蒼井は「それはあるけど、抜きどころが見つかったというか、生きていて楽しそうだなと思います」と微笑む。
2人とも、今の活躍ぶりは言うまでもないが、とても上手に年月を重ねてきたように思えてならない。松山が「今後、また共演するのが楽しみです」と言うと、蒼井もうなずく。スクリーンには、2人の信頼関係がしっかりと映し出されているので、乞うご期待。【取材・文/山崎伸子】