素っ裸の恋人をホテルで締め出し!恋人のいたずらは、どこまで許せるか?
カギを持ち忘れたままホテルの部屋を出て、オートロックの締め出しを食らう、というのはよくある話。でも、その時、素っ裸だったとしたら?しかも、自分ではなく、恋人から締め出されたとしたら?これは、『クラッシュ』(04)のポール・ハギス監督作『サード・パーソン』(6月20日公開)での1シーンのこと。ピュリッツァー賞作家のマイケル(リーアム・ニーソン)が、不倫相手のアンナ(オリヴィア・ワイルド)にした、いたずらである。
マイケルとアンナは、互いに惹かれ合いながらも、突き放したり、情熱的に求めたりと、いわゆる恋の駆け引きを展開する。そのツンデレぶりがたまらない。マイケルには別居中の妻(キム・ベイシンガー)がいて、アンナにも別の恋人がいる。よくある話だが、お互いへの嫉妬心が、より一層、2人をメラメラと燃えさせるのだ。
冒頭の締め出しシーンをはじめ、ここまでの暴言を吐くなんてひどい!とか、こんな仕打ちはやりすぎだとか、見ていてハラハラするのだけど、その掛け合いは妙にリアル。もしも、自分が同じ立場だったら、どうなんだろうと重ね合わせてみたり、ケンカした後の絶妙なフォローや小粋なやりとりは、学ぶところが多い。そこは、ストーリーテリングの名手ポール・ハギスならではの成せる技。練りに練った上質な脚本で、洋画でしか成立しない、極上のロマンスを紡ぎ上げている。
さて、『サード・パーソン』の面白さは、そこだけではない。パリ、ローマ、ニューヨークという3つの都市を舞台に、3組の男女の物語が繰り広げられるという、1粒で3倍おいしい人間ドラマだ。それは、3つのお菓子のバリューセットというよりは、幾層にもなったミルフィーユのようなあんばいである。キーワードは、サード・パーソン=第三者。むふふ。見終わった後、何度も咀嚼したくなる、珠玉の作品である。【取材・文/山崎伸子】