ゾンビなのにグロくて、エロい!Jホラーの巨匠が実写化した独特の世界観
ゾンビが大量に増殖した極限状況下の人々を描くサバイバル・ホラー『Z ゼット 果てなき希望』(7月26日公開)。ゾンビ映画だけに凄惨な殺戮シーンの連続と思いきや、本作では死を前にした人間の心理描写が巧みに表現されている。Jホラーの先駆者として知られる鶴田法男監督ならではの、こだわり抜いたゾンビ映画のポイントとは?
鶴田監督といえば、「ほんとにあった怖い話」シリーズや『リング0 バースデイ』(00)などを手掛け、日本のホラー映画界を牽引し続けてきた存在だが、ゾンビ映画などのショッキングホラーを手掛けるのは意外にも本作が初めて。ゾンビなどの特殊メイクを駆使したホラー映画が欧米で製作されて、日本でもブームになったという80年代当時に触れ、「日本には『四谷怪談』や『牡丹灯籠』などの伝統的なホラーがあるのにもったいないなと。僕自身が基本的に残酷な描写で怖がらせることに否定的だったのと、日本のすぐれたホラー文化を広めたいという想いがあり、この20数年はゾンビやスプラッター作品の依頼は断ってきたんです。けれど、原作を読んだ時に、自身のそういうスタンスに関係なく映像化したいと思いました」。鶴田監督がそう熱く語るのが、相原コージの人気漫画「Z~ゼット~」。この作中に登場するゾンビや、逃げ惑う人々の様子は妙に生々しくてつい引き込まれてしまうのだ。
というのも漫画で描かれるこのゾンビ、ホラー映画の名匠ジョージ・A・ロメロ作品のゾンビを踏襲しているものの、“脳を破壊したら二度と動かなくなるゾンビ”は登場しない。ゾンビならぬ“生きる屍=Z(ゼット)”は、頭部を切り落としても、手足だけになっても襲い掛かってくるのだ。鶴田監督曰く「相原先生からは『怖い映画を作ってください』と注文を受けた」というように、映画では血肉飛び散るシーンも! だが何より実写化で注目して欲しいのが、恐怖シーンを盛り立てる“音”だ。劇中で音楽が挿入されているシーンは1シーンのみで、ほとんどが効果音ばかり。それが心理的恐怖を倍増させる!
「この実写化にあたっての制作条件として、音響効果を大河原将さんにお願いするのは譲れなかった。いま日本の音響効果マンの中で3本の指に入るんじゃないかな。予算的に彼に依頼するのは厳しかったのですが、“やります”と引き受けてくれた。正直この公開規模の作品としてはあり得ないほどの“音”なんですよ」と鶴田監督が語るように、ゾンビが奏でるうなり声や人間の臓器を貪る音はとにかく必聴!目(視覚)だけでなく耳(聴覚)を刺激する恐怖シーンの数々は実写映画ならではの醍醐味だ。
「絶望的な状態に置かれても逞しく生きようとする人々の姿を映し出すことで、見ている人に、どんなに辛いことがあっても希望を捨てずに頑張ろうと伝えたかった」。そう力強く語る鶴田監督の言葉にあるように、凄惨な殺戮シーンそのものよりも、“生”への執着心がポジティブに描かれている印象を受ける本作。「死が差し迫った絶望的な状況だからこそ、『女の人のおっぱいが見たい』とか、『相手が誰でもいいからセックスしたい』とか、ふだん人間がオブラートに包んでいる欲望を噴出するところを描いているんです。情けなくて切なくて滑稽ですが、でもその発想ってとても人間らしいですよね」と、鶴田監督が絶賛していた原作漫画の世界観のキモは、本作にも如実に表れているのだ(ゾンビホラーと思って見ると意外な驚きがあるかも?)。ちなみに終盤には、原作者の相原コージが、えらい凝ったゾンビメイクで出演しているので、このサプライズも見逃さずにぜひチェックしてほしい。【トライワークス】