女子高生の集団妊娠騒動を映画化。監督デビュー作で攻めに出た新鋭監督に迫る!

インタビュー

女子高生の集団妊娠騒動を映画化。監督デビュー作で攻めに出た新鋭監督に迫る!

「いい?みんな、真面目にセックスしてきなさいよ!」。そう言い放つ真面目そうな女子高生に「はい!」と勢いよく返事をする同級生たち。そう、彼女たちが精を出すのは、勉強でも部活でもなく“セックス”。これは、女子高生たちの集団妊娠騒動を巻き起こす映画『リュウグウノツカイ』(8月2日公開)の1シーンだ。少し間違えればドン引きされそうな題材を扱った本作で、監督デビューをした新鋭ウエダアツシ監督にインタビュー。気になる撮影裏話を聞いた。

舞台は、土地開発の影響で漁業不振に陥り、寂れてしまった田舎の小さな漁師町。家庭崩壊などで、鬱屈した思いを抱える少女たち10人が、集団妊娠活動で意気投合する。それが、2014年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭オフシアター・コンペティション部門で北海道知事賞を受賞した衝撃作『リュウグウノツカイ』だ。審査委員長の根岸吉太郎監督は、アメリカでの実際の事件を、日本を舞台に置きかえ、今の社会問題をも内包した本作を高く評価した。確かに見方によっては、震災直後の漁村の惨状をも彷彿させる。

元ネタとなったのは、アメリカで起きた17人の女子高生による集団妊娠事件だ。ウエダ監督は、テレビのニュースでこのことを知った。「そこからネットで詳しく調べていったんです。アメリカでの事件の後、ポーランドでも中学生がゲーム感覚で集団セックスをして5人の生徒が妊娠した事件もありました。たぶん世界ではちょくちょくこの手の事件は起こっているのではないでしょうか。でも、アメリカの騒動に関しては、規模も大きかったですし、何か惹かれるものがありました」。

アメリカの集団妊娠騒動は、ジョージ・クルーニー主演の映画『パーフェクト ストーム』(02)の舞台にもなった、小さな漁村グロスターで2008年に起きた。「漁業の規制ができてカジキ漁が衰退していき、少女たちの家庭が荒れていったそうです。彼女たちは、夜な夜な家を抜け出していたらしい。その頃、ちょうど『JUNOジュノ』(07)が大ヒットしたり、ジェイミー・リン・スピアーズが16歳で妊娠したりと、若年層の妊娠が話題になったりしていて、それらの影響をもろに受けた世代なのかもしれない」。

普段から、映画のモチーフになりそうなネタは常にストックしているというウエダ監督。「タイトルになった『リュウグウノツカイ』は、この集団妊娠が起きた小さな漁村で、1800年代に数百人の人が海で竜を見たという目撃談があり、その正体がリュウグウノツカイじゃないかと言われているんです。今回は、この小さな漁村の二大事件、謎の深海魚の目撃談と、集団妊娠事件をリンクさせてみたらどうかと思って、脚本を書いていきました」。

目指したのは「アイドル映画のくくりではない、女子高生映画」だったというウエダ監督。「重い人間ドラマではなく、アメリカの事件のように、ノリで妊娠活動をするという内容の映画です。だから、女優さんたちには、妊娠活動というのを深く考えず、『スウィングガールズ』(04)のブラスバンドが妊娠になっただけだと説明しました」。

“妊活”に励む女子高生役の若手女優陣の活き活きとした表情がたまらなく良い。一体、どのような現場だったのだろうか。ちなみに自主映画なのでスタッフはたったウエダ監督を含めて6人。スタッフは自分の持ち場以外に美術の仕込みから女優陣の送迎、衣装の洗濯まで、何役もこなしたと言う。「たぶん現場で演出に割ける時間はそんなにないと覚悟をしていたので、極力、脚本に細かく指示を入れたんです」。

彼女たちの会話劇は、まるでドキュメンタリーを見ているかのように自然体だが、実際にはほとんどアドリブはなかったそうだ。「武田さんは反射的にやるタイプだから、ちょくちょくアドリブを入れてくれたけど、他の子はそうでもなかった。だから、フレーム外の人の動きや会話まで、細かく用意しました。でも、スタッフが少なかった分、待ち時間も多かったので、彼女たちが仲良くなる時間ができて良かったのかもしれません。考えてみれば、僕は初監督、彼女たちはプロの役者さん。全編を通して感じられる女子高生のグルーブ感は、彼女たちが自主的に作ってくれたものだと思っています。だからみなさんにはすごく感謝しています」。

いよいよ今週末に封切られる『リュウグウノツカイ』。デビュー作にして、かなり攻めの題材なので、もっと力技の荒削りな作品を想像していたら、その予想は良い意味で裏切られた。きっちりした構成とストーリーテリングで、少女たちの勢いや心の惑いを余すことなくすくい上げたウエダアツシ監督。その手腕をスクリーンで確かめてほしい。【取材・文/山崎伸子】

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