本物のホームレスと間違えられたリチャード・ギアがNY映画祭で『Time out of mind』を語る!

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本物のホームレスと間違えられたリチャード・ギアがNY映画祭で『Time out of mind』を語る!

9月26日から開催されている第52回ニューヨーク映画祭で、10月5日の全米公開に先駆けて上映された『Time out of mind(原題)』で主演を務めるリチャード・ギアとオーレン・ムヴァーマン監督が登壇し、記者会見に応じた。

リチャードが主演とプロデュースを手掛ける本作でメガホンをとるのは、各賞を受賞した『アイム・ノット・ゼア』(07)で脚本を手がけたオーレン・ムヴァーマン監督。リチャードが同作でボブ・ディランを演じて以来の友人関係が続いているという。

『アメリカン・ジゴロ』(80)のイメージが強いリチャードが同作で演じるのは、仕事も、そして時折記憶もなくし、挙句の果てにアパートも追い出されて、ホームレスになり下がっていくアルコール依存症のジョージだ。

「10年前に渡されて実現できなかった脚本は、80年代後半に書かれたものだったが、当時まだ新鮮だったし、僕の頭から離れなかった。ホームレスのシェルターにも通って、実際にホームレスの人たちともいろいろ話たりして相当リサーチをした。映画化権を買ってオーレンにこの話を持ちかけてじっくりと話し合ったところ、彼と思い描くものがとても似ていたことがわかったんだ。実際にホームレスとしての確固たるビジョンを持った人間と出会い、とんとん拍子で進んだのであまりリハーサルの時間はなかったが、オーレンが最初のカットを見せてくれた時、『これこそ自分が作りたかった映画だ』と思った。企画が実現したのはある意味奇跡だと思う」とリチャードが製作に至る過程を語った。リチャードの演技があまりにリアルで、撮影中に本物のホームレスに間違えられたことは、日米でも大きく取り沙汰された。

オーレン監督は、「テスト撮影で、僕らはスターバックスから撮影してみたんだ。街中での撮影はリチャードも僕もどういう風になるかちょっと心配していたが、ニット帽をかぶって薄汚れたコートを着たリチャードに気が付く人はいなかった。それで実際に大きなロングレンズ3本で撮影し、クルーは遠くに待機していたので、俳優たちからほとんど見えない状況だった」と語った。

リチャードは、「おかげで数週間、街で撮影している間、周囲の人たちは映画の撮影だということも、僕にも気が付かなかったみたいだ。実際に話しかけられたのは3人くらい。フランス人女性の観光客には、本当のホームレスと間違えられて食べ物を恵んでもらった。2人の黒人は極めてオープンで、『やあ、リッチ(リチャード)元気かい?』って普通に話しかけてきた。僕だとわかっているのに、『そんな恰好をして、一体何があったの?』なんてことは聞いてこないんだ。じろじろ見ながら、ただ通り過ぎていく人もいた。僕が飲み物のカップをもって、『助けてください。コインを恵んでください』って叫ぶシーンでは、驚くほどにほとんどの人が無関心だったし、例えコインを恵んでくれた人でも、決して僕と目を合わせようとしなかった。その時に、人間にとって世間と遮断されることが一番恐ろしく、誰もが自分の話を聞いてもらったり自分のことを認めてもらいたいんだという、普通の欲求を嫌というほど思い知らされた。そのおかげで自然に演技ができた。皆さんは今日この映画を見て、僕の話を聞いてくれている。それは素晴らしいことだけど、一方で、同じ人間である僕が街で誰からも相手にされない経験もした。それがこの作品のすべてだと思う」と撮影当時を振り返った。

またジョージのバックラウンドが曖昧なことについては、「皆知りたいと思うだろね。実際に10年前の脚本には彼の職業とか経歴とか、もっときちんとしたプロフィールみたいなものが描かれていた。でも今回新たに脚本を書き直す過程でオーレンと話したのは、『彼のバックグランドはどうでもいい』ってことだった。人はまず身なりで人を判断してしまうけれど、お金持ちもホームレスも、人間の本質は変わらない。ホームレスは悪い人間ではないし人生の落第者でもない。誰かとコミュニケーションが必要だし、微笑みかけてもらえば彼等だって嬉しいんだ。人生は映画のようにロマンティックなものではないし、苦しみや葛藤はどんなバックグラウンドだろうと同じなんだ。バックグラウンドを明確にした方が同情を買ったりするのは簡単だけど、あえてそれを避けたんだ」と力強くかつ穏やかに語るリチャードには、ジゴロを気取っていた昔のイメージは見あたらなかった。

同作のタイトル『Time out of mind』は、97年にリリースされたボブ・ディランの30枚目のアルバム『タイム・アウト・オブ・マインド』にインスパイアされたものだが、作中でリチャードが執筆したテーマ曲のピアノパフォーマンスも必見だ。【取材・文/NY在住JUNKO】

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