「妻がいない」伊勢谷が結婚観をぶつける!ユ・ジテと伊勢谷友介の清々しい男の友情
ガンで声を失った天才オペラ歌手と彼を信じて支えた日本人音楽プロデューサー。映画『ザ・テノール 真実の物語』(10月11日公開)は、奇跡の実話をもとに国境を越えた2人の絆を描く感動作だ。主演するユ・ジテと伊勢谷友介を直撃すると、男気あふれる清々しい友情。そしてたくさんの笑いの中に情熱がほとばしり、本作さながらの強い“絆”が見えてきた。
ジテが演じるのは、「100年に一人の声を持つテノール」といわれたオペラ歌手ベー・チェチョル。発声から姿勢まで細かくトレーニングを受けてオペラ歌手になりきった。声を失う前のチェチョル氏の印象を、ジテは「ライオンのような、カリスマ性のある存在。堂々とした風貌といい、男として惚れるような人」と語る。
しかしスター歌手のチェチョルに、突然不幸が訪れる。甲状腺がんが彼を襲い、声を失ってしまうのだ。絶望の底から這い上がろうとする男を演じたが、「彼は苦痛を経験して、困難を乗り越えたことでより人間的に大きくなっていく。人間性にも歌にも穏やかさが加わっていきます。そこに大変、感銘を受けました」とジテ。「ステージに再び立つ彼を演じられたことは、今後ずっと忘れることができない。それくらいのインパクトがあることでした」。
チェチョルを支えるプロデューサー・沢田役を演じるのが伊勢谷で、「チェチョルの奥さんがすごく良いことを言うんです」とうなずく。「『全部見せたら良い』って。それまでは精巧な楽器でしかなかったけれど、その言葉をきっかけに、自分を受け入れ、人としての豊かさや厚みが増していく。声が出ないという状況を受け入れることは、本当に苦しいことだったと思います。僕自身も、彼らの変化していく姿からとても学ぶ部分がありました」。
日本と韓国の国境を越えた友情が感動を呼ぶが、ジテは「私達は愛し合うことができる資質を持っている。お互いに愛をわかち合うことができる資質を持った人間同士」とニッコリ。一方の伊勢谷も、とてつもなく熱いものを抱えていた。「国家間でいろいろと難しい問題もあるけれど、人と人とが個人同士でつながっていく姿を描く映画に出られるのは、映画人としてもすごく嬉しいこと」とまっすぐに語る。
本作のオファーには即答したそうで、「こういった愛情の交換を見せられる映画に関われることは、役者冥利に尽きる。今回の現場でもたくさんの国の人がいましたけれど、最初は緊張とリスペクトがあって、そこからどんどん打ち解けていってという繰返しがあって。それはどこの国に行っても同じこと」と映画作りを通して、国境を越えた人とのつながりを実感していた。
ともに1976年生まれの38歳。監督業にもトライするなど、共通項の多い2人だ。伊勢谷は「似た部分も感じたし、刺激もすごく受けました」と嬉しそうな笑顔。「でも彼には妻がいて、僕にはいないんですよ」と話すと、ジテも大爆笑だ。伊勢谷は「それって人間性を反映しているのかも。僕はどうしても性格的にイノベーティブなところがあって、後ろを振り向くのも忘れてバンバン進んでいくクセがあるんですよ。一人で爆走しちゃうんです。でも彼は、この厚い胸板ですべてを拾っていってくれる気がするでしょう?常にこの優しいオーラを持ったまま現場にいるんですよ。だからこそ、奥さんは『彼の隣にいたい』と感じているのかもしれませんね」。
笑いが止まらないといった様子のジテは、「僕はあまり人を褒めるのが得意ではないんだけれど、伊勢谷さんは、本当に素敵な俳優で素敵な人間。素晴らしい俳優で素晴らしい人間です。そして、私の妻も本当に素敵な人間なんですよ」とノリノリで話し、伊勢谷と笑い合う。互いへの敬意と友情がビシビシと感じられるが、伊勢谷は「もうね、最初からこんな感じだったんですよ」と述懐。「僕は彼の仕事をすごくリスペクトしていたし、『ご一緒できて光栄です』というところから始めて。そうしたら彼がすごい優しいから、『僕の彼氏かな!?』と思うほどでした」と冗談をいい、ジテも「本当に伊勢谷さんとの撮影は楽しかった」と充実感をにじませる。
諦めない気持ちこそ、人生を輝かせるエッセンスだと教えてくれる本作。2人にとって、くじけそうな時に原動力となることはあるだろうか?伊勢谷は「自分の命の使い道を知ることですね」とキッパリ。「周りが不幸で自分だけ幸せになるということはあり得ない。周りを幸せにすることで、より自分も幸せになる。そのことに気づくことが大事。辛い状況にいる人を助けてみると、そこからすごくエネルギーをもらえることに気づく」。
ジテは「職業」と回答。「映画俳優であること、監督であること。この職業が自分を進ませる原動力です。もっと良い俳優になりたい、良い監督になりたい。そして良い人間になりたいという目標があって、それを達成するために絶えず努力しています。自分の職業に心からプライドを持っています」。すると伊勢谷も深くうなずき、2人でハイタッチ。映画にも彼らの絆が、しっかりと刻み込まれている。【取材・文/成田おり枝】
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