グレース・ケリー役のニコール・キッドマン、渾身のスピーチに20テイク!
クールビューティの代名詞、グレース・ケリー。世紀の大スターがモナコ大公レーニエ三世と恋に落ち、モナコ公妃となった。映画よりも強烈にドラマティックな人生を送ったグレースの感動の秘話を映画化した『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』(10月18日公開)がいよいよ公開される。本作を引っ提げて来日したオリヴィエ・ダアン監督にインタビューし、主演のニコール・キッドマンとの撮影秘話について話を聞いた。
美貌だけではなく、『喝采』(54)で第27回アカデミー賞主演女優賞に輝いたグレースは、モナコ公妃となってからも、アルフレッド・ヒッチコック監督から映画のオファーが入っていたそうだ。本作では、グレースがモナコ公妃となってからの葛藤を軸に、モナコの運命を左右するような国政の駆け引きをするに至るまでの、知られざるエピソードが描かれる。
『エディット・ピアフ 愛の讃歌』(07)では、主演のマリオン・コティヤールを第80回アカデミー賞主演女優賞に導いたダアン監督だが、今回のニコールについては「外見にあまり重きを置かなかった」と言う。「それよりも、僕は彼女自身のありのままを撮りたいと思った。実際、グレースとニコールの経験はとても近しいところがあったしね。似せるというパフォーマンスに力が入りすぎると、観客はニコールの女優としての演技を見ようとしてしまう。今回クローズアップを多用したのは、彼女の内面性に興味があったからだ」。
特にクライマックスで、グレースがスピーチをする長回しのシーンが圧巻だ。「シナリオでは5、6ページある大切なシーンで、それを3~4台のカメラで撮ることにした。1つのカメラは必ずクローズアップで撮り、他のカメラはもう少しヒキのカットを撮る。ニコール自身、あのシーンではかなりナーバスになっていたよ」。
撮影当日は、ニコールのリクエストで撮影時間を前倒ししてスタートしたそうだ。「スピーチのシーンの撮影は15時にプログラムされていたんだけど、彼女が朝、いきなりやってきて『今、すぐに撮ってほしい』と言うんだ。それで急遽、スケジュールを変えたんだよ」。
なんとこのシーンは、おおよそ20回テイクも撮ったらしい。「多く見えるけど、たいしたことないんだ。僕は普段、テイク数が少ない方の監督なんだから(苦笑)。この場合は、カット割りが3カットのみの長いシーンだったから大変だった。実際、終わった後のニコールは、出せるものは全部出し切ったみたいな感じだったよ」。
また、このスピーチの場に、フランスのシャルル・ド・ゴール大統領がいるが、史実としてはいなかったという点が興味深い。「でも、大統領がいた方が、映画的によりインパクトが強くなると思ったからそうしたんだ。実際に、敵対関係にあったという事実そのものはリスペクトするけど、それをより映画的に見せたいと思ったから」。
史実を忠実に描くことよりも、心の琴線にふれる映像を撮ることの方が大事だというダアン監督。「文学の世界でも、現実にいた人物からインスパイアされ、すごくロマネスクな人物を作り出すという手法があるでしょ。僕自身もそうで、たとえ伝記映画であろうと、映画という時点で、すべてフィクションだと僕は思っている。そこには、フィクションと、実在の人物との境界線はない。自分にとって大切なのは、自分が描こうとしている人物のいちばん深いところに近づくことなんだ」。
確かに『グレース・オブ・モナコ 公妃の切り札』で、ダアン監督は、グレースの心にぴったりと寄り添い、揺れ動く心のひだを丁寧にすくい取っている。映画を見ると、グレース・ケリーの知られざる一面に、驚きと感動を覚えるに違いない。【取材・文/山崎伸子】