庵野秀明が自身のキャリアを振り返る!【実写映画編】アニメで感じた限界と実写でしか撮れない映像とは?Part2

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庵野秀明が自身のキャリアを振り返る!【実写映画編】アニメで感じた限界と実写でしか撮れない映像とは?Part2

(【実写映画編】Part1からの続き)

【“きれいな画”を追求した『式日 SHIKI-JITSU』】

氷川「『ラブ&ポップ』を受けて、次は『式日 SHIKI-JITSU』です。スタジオカジノについてはどう説明すればいいですか?」

庵野「スタジオジブリの実写レーベルですね。ジブリのスタジオが梶野町にあるので、スタジオカジノ。博打のカジノではないですよ(笑)。鈴木(敏夫)さんが何も考えずに『梶野町にあるからカジノでいいんじゃない?』と」

氷川「『式日 SHIKI-JITSU』はジブリで実写を作るという企画ありきで始まったんですか?」

庵野「もともとは樋口(真嗣)と2人で特撮映画をジブリで作ろうとしていたんです。徳間(康快)さんにおねだりして。僕の力不足でそれを形にすることができなかったんですが…。その前後で藤谷文子の小説を読んだらおもしろくて、彼女の小説をテーマを汲んで、僕が分解、再構成して『式日 SHIKI-JITSU』という作品に置き換えていきました。“きれいな実写”を一度やってみたいと思っていたんです。ちゃんと35ミリフィルムで、アナモ(フィックレンズ)を使って。アナモはハレーションが横に広がるんです。とにかく自分の作品にアナモのハレーションを一度入れてみたかった。最近では(J・J・)エイブラムスがよく使ってますけど、『こんなところにハレーションができるわけない!』というところにまで入れてますから(笑)。あと、地元の(山口県)宇部市は好きじゃなかったんですが、NHKの番組(『課外授業 ようこそ先輩』)で久しぶりに帰ったときに、宇部のおもしろさに気づいたんです。ここなら映画が撮れるんじゃないかと思いました。それで徳間さんにお会いして、『この映画は絶対に元が取れませんけど、大丈夫ですか?』と確認したら、『今回儲からなくても、次で儲かればいい。好きにやってほしい』というお言葉をいただいたんです。映画の中身に関しては本当にミニマムで、1000人の観客がいたら数人にしかわからないと思います。『式日 SHIKI-JITSU』は数パーセントの人にとって一生残るような映画にしたかった」

【幼少期の原風景とキャストへのこだわり】

庵野「『式日 SHIKI-JITSU』には僕の好きな宇部の風景がほとんど入っています。幼い頃は工場のすぐそばで育ったので、あれが原風景だったんでしょうね。いまでも工場とか、鉄の塊が好きですね。電柱もそうですが、僕はが好きなのはその“機能美”。いま政界に電柱をなくそうとする動きがあるんです。ただでさえ街がつまらない画なのに、これ以上つまらなくしてどうするんだと。電柱がなくなった東京なんて、何の魅力もないです。あの議員連中はそれをまるでわかっていないんですよ。電柱は積極的に残すべきだと思いますね。電柱は文化遺産にするべきなんです(笑)」

氷川「『エヴァ』の影響で深夜アニメでも電柱が描かれたりしていますが、斜めではなく垂直に描かれていることが多いんですよね」

庵野「電柱に対する愛情が足りないですよ。表層だけまねても、魂は入らないです」

氷川「キャストの話をすると、映画監督の岩井(俊二)さんが監督という役です」

庵野「あの役を役者さんが演じると違うんですよ。宮さん(宮崎駿)が『風立ちぬ』で僕に頼んだのも同じような理由でしょうね。その意味では、宮さんに先行して僕がやってるんですよ(笑)。だから宮さんにお願いされたときに、僕も岩井さんにお願いしたから断れなかった。組織の上に立つ役は、上に立ったことがある人がやらないと“本物感”がでない。まあ、岩井さんは現場でずっと『リリイ・シュシュのすべて』を書いてましたけど(笑)。ワープロを打つシーンでは本当に仕事をしてましたね」

【『キューティーハニー』での反省と特撮への思い】

氷川「『キューティーハニー』は前2作と全然違っていて、アニメっぽいというか…」

庵野「『式日 SHIKI-JITSU』できれいなものを撮ったので、その反動でマンガっぽくて、アニメと実写のいいとこ取りができないかと。僕の中で『仮面ライダー』みたいなアクションものをとにかくやりたかった。それが『キューティーハニー』の発端」

氷川「『キューティーハニー』は『仮面ライダー』と同年代の作品ですし、特撮変身もののフォーマットで作られていますよね」

庵野「そうですね。『キューティーハニー』でやることは決まっていたんですけど、(制作会社の)トワーニで順番待ちがあったんです。このとき感じたのは、映画を作るときは民主主義ではダメだなと。トワーニは3社が出資している会社だったんですけど、どこが一番強いというのがなかったんです。だから多数決、あるいは全会一致でないと進められない。最初は大きかった予算もどんどん尻すぼみになって…。順番待ちの間に作られていた映画が当たらなかったんですね。僕が『キューティーハニー』を撮る頃には予算がかなり目減りしていました」

氷川「とはいえ、待望の特撮ヒロインものですよね?」

庵野「唯一この映画で失敗したのは、予算に合わせて脚本を書き直さなかったこと。順番待ちの間に積み上げてきた時間とか、労力があったので、脚本書き直しの判断ができず…。もうちょっと特撮のカットも欲しかったし、結果的にいろいろと中途半端な感じになったのは残念です。それは僕の能力不足でしたね。実写は3本目でしたけど、特撮とCGがこれだけ混ざっている映画は初めてだったので、どこにお金をつぎ込めば効率よく映像が作れるのかよくわからなかった。その分みんなに迷惑をかけちゃったし、申し訳なかったです。役者さんの頑張りでいい作品になってますけど、僕の能力不足。もともと、ウチの奥さん(安野モヨコ)が描いた『ハッピー・マニア』というマンガがあって、読んだときにものすごくショックを受けたんです。『エヴァンゲリオン』で自分がやろうとしていたことがそこに描かれていて、これはすごいと。このテイストを入れて何か映像を作りたいというのが、僕個人の『キューティーハニー』での目的だった」

氷川「今後、また実写をやるとしたらどうしますか?」

庵野「ちゃんとお金をかけて、また特撮に挑戦してみたいですね。企画はこれまでにもいろいろあったんですけど、いま特撮映画を撮ることは本当に難しい。オリジナルの企画もいろいろと考えてはいるんですけど、なかなか実現に至らないんです。オリジナルの特撮を撮れるようにこれからも頑張ります」

【取材・文/トライワークス】

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