庵野秀明が自身のキャリアを振り返る!【アニメーター編】師匠でもある天才・宮崎駿の仕事を大いに語る!Part2
(【アニメーター編】Part1からの続き)
【アニメーター・庵野秀明の最高峰『王立宇宙軍』】
氷川「今回『王立宇宙軍』が2種類上映されてるんですが、貴重なのがパイロット版(『王立宇宙軍 パイロットフィルム(~リイクニの翼~ 製作発表時映像)』)。そのあたりの説明をお聞かせください。
庵野「(人工衛星の)接続リングが外れてバラバラになるシーンが、僕はパイロット版の方が好きなので、それを見てほしかったんです。パイロット版は背景に地球の青があるのでバラける様子が綺麗に見えていいんですよ。本編の方は、『あの高度だと背景に地球が見えるのがおかしい』という話になって、真っ暗な宇宙空間に変更になったんです。せっかく描いた細かい破片が、溶け込んで見えなくなっちゃったのが残念だったので」
氷川「『王立宇宙軍 オネアミスの翼』は『DAICON』からの発展系になるわけですが、どのあたりから参加されたんですか?」
庵野「最初から。監督の山賀(博之)が言うには僕がいるから打ち上げの話にしたんだと。企画の時に、庵野を一番うまく活用するには何がいいだろう?という発想らしいです」
氷川「庵野さん自身は“ロケット打ち上げ”ってどうなんですか?」
庵野「プロットとかすごく面白かったし、何より、あの時期に自分たちだけで劇場用のアニメを大真面目に作る。しかも本来アニメとしてはウケないような内容で…ということがすごく意義があると思ってましたし、ものすごく積極的に参加してましたよ。やれることは全部やりました。友達のアニメーター呼ぶとか、リテイク制作までやっていましたから」
氷川「『王立宇宙軍』が今までで一番リアリズムを取り入れている気がするんですが」
庵野「作品世界がリアルな方向にいってて、漫画的な描写を受け付けないものだったので。できるだけリアルに、実際は特撮っぽく見えるように、そこは頑張ってやっていましたね。今改めて見ても、アニメーターの技術としては『王立宇宙軍』が最高峰だと思います。今もうアレは描けない。近々でやった“爆発”で自分でよかったと思うのは『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』のアバンの2号機の周りで次々に起こる爆発ですね。描き送りなんですが、アニメーターとして久しぶりによく描けたカットだなと思ってます」
氷川「そうしたリアリズムの流れは板野さんが始めたことですよね?」
庵野「漫画とは一線を画して描写がどんどんリアルな方向に進んでいって、『宇宙戦艦ヤマト』はその最初のピークだったと思うんです。石黒(昇)さんの仕事に感化されて、板野さんのところに行って…という僕は、本当に(石黒さん、板野さんに続く)三代目だと思います。つまり、エフェクトアニメーターとして始めて、監督になって、自分の会社を作って…という風に(お2人と)全く同じ道を歩んでる」
氷川「作品の系譜的にも繋がってますしね」
庵野「『宇宙戦艦ヤマト』『マクロス』『王立宇宙軍』…と、確かに何だか繋がってますね」
氷川「ご自身を含めて三世代と仰った石黒さん、板野さんのほかに金田(伊功)さん。(その皆さんが核となり)アニメの中のエフェクトが、特技監督、特撮監督みたいな位置づけになって、アニメを引っ張ってきたと思っうんですが…」
庵野「ええ、キャラクターだけじゃないところに花がある。だから『王立宇宙軍』とか今見たら、僕の担当したカットだけで、ちゃんと見せ場になってるなと改めて思いましたね」
氷川「そうなんです。メカ作監とクレジットされている作品もあんまりなくなっちゃってるなと」
庵野「今の時代は、そういうところは“CG様”がやってくれるので。手でやる必要がもうない。CG様の方が効率がいいんです。そういうのが描けるアニメーターも高齢化してるので」
氷川「そういえば元祖エフェクトともいえるのが宮崎さんが担当された『空飛ぶゆうれい船』。この映画に憧れて金田さんもアニメーターになった」
庵野「宮さんのエフェクトはいいですよね。アニメーターとしての宮崎駿の最高傑作は『空飛ぶゆうれい船』ですよ。見てない方はぜひ。宮さんの仕事の最高峰ですよ」
氷川「以前に好きな宮崎アニメは?と聞かれて『ゆうれい船』って言ったらギャグだと思われたことがあって…」
庵野「いや僕も宮さんの仕事で何が一番好きかと聞かれたら『ゆうれい船』と答えます。アニメーターとしてね」
【天才・宮崎駿の真の能力とは?次代のアニメーターへの助言】
氷川「これからアニメーターを目指す方に伝えたいことはありますか?」
庵野「アニメーターはまず絵描きじゃなきゃいけない。それにカメラマンじゃなきゃいけないし、俳優じゃなきゃいけない。実写だったら全部バラバラでやってることを、基本的に1人でやれる面白い職業なんですよ。アニメーターになろうという人がいたら、その面白さが分かれば続くと思いますし、あとはやっぱりモノを見ることですね」
氷川「やっぱり観察ですか?」
庵野「観察だと思います。宮さんがすごいところは観察力。1度見たものは忘れない記憶力、1回見ただけで構造的に把握していてこれがすごい。時々間違ってますけどね(笑)。アニメーションというのは、記号に落とす作業があるので、記号化する時に何を残して何を捨てたら一番効率がいいか。そのオリジナルとなるモノを見て、自分で考えてイメージを組み直さなきゃいけないんですね。1度チャラにして、再構築する作業、そこにも面白さはあると思います。人間も動きもデフォルメできるし。実際に『王立宇宙軍』が上映された後、業界の人から『これだったら実写できるじゃないか』と悪口を言われたんですけど、テイク何回重ねたらできると思ているのかと。(実写化できると言った)その人は嫌みでも、僕には褒め言葉ですよね。実写ではできないですから」
氷川「アニメーションにしかできないことがある?」
庵野「そう、それがアニメーターにはできる。あとCGのアニメーターには、絵を描かなくても済む有難さをもっと思い知ってほしい。これからはCGのアニメーターの方が増えてくと思うんですが、観察力・洞察力が必要なのは同じ。何が起こったから結果的にこうなるという“原因”と“結果”の因果関係の把握というのはアニメーターには絶対必要なので。あと質感の表現の仕方とか重力とか…物理的な能力もないとアニメーターとしては難しい。そういうことをこれから若い人は勉強して下さい。こんな僕でも(今日上映した)ここまではできるんです。僕も板野さんも、本当に絵が下手ですから!」
【取材・文/トライワークス】