庵野秀明が自身のキャリアを振り返る!【短編作品編】アニメ&特撮への恩返しと新作製作への意欲を語る!Part1
1週間にわたって開催された第27回東京国際映画祭の「庵野秀明の世界」。クリエイター・庵野秀明のキャリアを振り返るこの大型特集上映と並行して行われたトークショーでは、庵野が自身の言葉で制作当時のエピソードを語った。全5回の最終回(10月30日開催)は『監督他・庵野秀明(短編)』について。庵野が手がけたCMやPVなど、短編に焦点を当てて作品を振り返ったトークショーの模様をレポートする。
【優れたサンライズの制作システムを反面教師に】
氷川竜介(アニメ・特撮研究家※以下省略)「今日は『監督他・庵野秀明(短編)』ということで、20タイトルにおよぶラインナップ。私も初めて観る作品がありました。どうやって作品を選定したんですか?」
庵野「大人の事情をクリアしたものを集めてますね(笑)。いま、可能なものはすべて上映するということで。こうやって作品を見ると、バラバラですね」
氷川「それだけ多彩ということですよね。多方面で活躍されていることを改めて実感されたと思うんですけど」
庵野「多方面のわりには、島本(和彦)の作品を2回もやっている(笑)。なぜだかわからないけど、島本の仕事が来るんですよね。そのかわり『炎の転校生』も『アニメ店長』もナレーションはすべて島本にやらせてますから。僕が恥をかくのなら、お前も恥かけということで(笑)。じゃあ順番に振り返っていきますか?」
氷川「そうですね。まずは『ビクター ハイパー・ロボットコンポ』のCM」
庵野「これはガイナックスの仕事です。絵コンテと光が飛んでくるエフェクトをやりましたね。絵コンテを出すときに、初めて広告代理店の人を見て、ホイチョイ(・プロダクションズ)のままでびっくりした(笑)。言うことも、やることも、格好も『これが広告代理店か!』と、いい勉強させてもらいましたね。その次の『夢幻戦士ヴァリス』のCMが、お金をもらって監督をする初めての仕事だった。このとき、僕はガイナックスだけじゃなくてスタジオ・グラビトンというところにもいたんです。グラビトンのクーラーが壊れて仕事にならなかったので、新しいものを買わなくちゃというときに、ちょうどサンライズから『夢幻戦士ヴァリス』の仕事が来て、その浮いたお金でクーラー買おうとしたんです(笑)」
氷川「『ヴァリス』はそもそもゲームの企画だったんですか?」
庵野「ゲームの企画で、僕がやったのはCMと店頭プロモ―ション用ですね。名前もクレジットされない仕事なので、スタッフはみんな気楽で。初めての監督だったんですけど、ベルトコンベアー式にシステムができていた。この辺りは、さすがサンライズさんですね(笑)。良い勉強になりました。このベルトコンベアー式はアカンなと(笑)。サンライズさんのシステムは素晴らしいんですけど、僕には合わなかった。そういうことです」
氷川「つまり『ヴァリス』で作家として志す方向性が見つかった?」
庵野「こういうことでもアニメは作れるんだとわかったんです。お金もなかったので、よその作品から背景からちょっと持ってきたり…。『ガンダム』と同じ背景が混じっていたと思います(笑)。良い時代ですね」
氷川「それと比べて、アニメショップ『パロディ』のCMは…」
庵野「僕が『ふしぎの海のナディア』のときに頑張りすぎて赤字を出してしまって、その赤字を埋めるためにこの企画が挙がってきた。ちょうど『ナディア』で樋口(真嗣)が“島編”をやっていた時期だったと思います。基本的には摩砂雪にまかせっきり。編集も薩川(昭夫)さんにやってもらった」
氷川「作画は菊池通隆さんですか?」
庵野「菊池くんがやったのはキャラデです。作画はやっていないんじゃないかな。原画はすごく豪華なメンバーですよ。誤算だったのが鶴巻(和哉)が2週間もかけたことですね(笑)。もちろん時間切れで引き上げました。中身もあまり考えてなかったと思いますよ。いま見てもよくわからないですし(笑)。憑依して、巨大化して、五重塔で変身して、爆発して…。(先方からは)奈良だということをわかるようにしてほしいと言われたんですよ。でも鹿描くのは大変(笑)。五重塔だったら止め絵で済むし、そもそも赤字を埋めるためにやっていたので、安く上げないと本末転倒になっちゃいますから」
氷川「そして次は91年に作られた『炎の転校生』の特報。これは友情監督という位置づけですか?」
庵野「お金をもらっていたのはガイナックスだったので、これも会社の仕事です。ラッシュで上がっている素材を集めて、編集する。『絵がこれしかないから、テロップかぶせるか!』という発想。島本にナレーションをやらせて…」
【庵野作品を特徴づけるテロップについて】
氷川「この改行するテロップとか、庵野さんっぽいなと思います。テロップといえば『ふしぎの海のナディア パーフェクトコレクション』」
庵野「これはほかの人に作ってもらうと、あまり良くなさそうだったので自分でやりますと。本編から鷺巣(詩郎)さんの曲を取ってきて、それに絵をはめていこうという編集です。いまだったらリニア(編集)ですぐできますけど、当時はノンリニアだったので積み重ねていくビデオ編集は本当に大変でした」
氷川「テロップは極太の明朝体なんですが、それはこだわったんですか?」
庵野「やっぱり明朝は見た目がいいんです。タイポグラフィがすごく好きだったんですよ。樋口がまた大好きで、樋口が使ったら『じゃあ、僕も使おう』という感じ。市川崑さんの『犬神家の一族』の影響ですかね」
氷川「次は『キューティーハニー』のプレゼン用のパイロット。2001年に製作とのことですが、映画の公開よりかなり前ですよね?」
庵野「『キューティーハニー』の企画が動き始めたとき、最初にプレゼン用のパイロットを作ったんです。こういう感じで実写なんだけどアニメっぽいことをやりますよというパイロット版ですね。摩砂雪と2人で編集しながら、音楽とか効果音をつけて提出しました」
氷川「このパイロットに関しては、実写のイメージをつかみながら作ったという感じですか?」
庵野「イメージはなかったですね。摩砂雪は止めとけばいいのに『未来少年コナン』の三角塔みたいなのを描いたりして(笑)。表に出るものではなからいいやと思って許していたんですけど、いま見ると恥ずかしいですね。摩砂雪は『コナン』が好きなので、ビルを描こうとすると三角塔になるんですよ」
(【短編作品編】Part2へ続く)
【取材・文/トライワークス】