「自殺に憧れる男」を演じた柳楽優弥がいま思うこととは?
2014年は、『クローズEXPLODE』で筋金入りのワルメン、『闇金ウシジマくん Part2』でストーカーと、強烈でスパイシーな役柄を演じてきた柳楽優弥。芥川賞作家・中村文則の同名小説を映画化した『最後の命』(11月8日公開)では、心の闇の深淵を、静かに力強く体現した。現在、24歳。今年は、第57回カンヌ国際映画祭で史上最年少の14歳で最優秀男優賞を受賞した『誰も知らない』(04)からちょうど10年という節目の年に当たる。近年、俳優として、新たなステージに上がった印象が強い柳楽優弥にインタビューし、撮影裏話や将来の展望について話を聞いた。
原作は、芥川賞作家・中村文則の同名小説。柳楽が演じたのは、幼少期に親友と共に巻き込まれた凄惨な事件のトラウマを抱える主人公・明瀬桂人役。事件の記憶に苛まれながら大人になった桂人と、親友の冴木裕一(矢野聖人)。2人が再会した夜、桂人の部屋で殺人事件が起こる。メガホンをとったのは『まだ、人間』(12)の松本准平監督。本作はNYチェルシー映画祭で、日本映画として初めて最優秀脚本賞を受賞した。
柳楽は2014年を振り返り「上半期は、『最後の命』と、三島由紀夫の『金閣寺』(舞台)だったので、かなりヘビーでした」と述懐。「最初に、松本監督から『桂人は自殺に憧れているんです』と言われ、重たいなと思いました。もちろん、そういう役柄だとわかってはいたんですが、口に出して言われるとまた違うというか、改めて覚悟を決めた初日でした。それは、クランクアップまで考えさせられた言葉でしたね」。
その後、しっかりと役柄に向き合い、役作りをしていった柳楽。桂人役について「闇を抱え、トラウマが頭の片隅にへばりついているような感覚が常にある。でも、そのなかで桂人たちは、光を探し、模索していくキャラクターだったので、とても魅力的に感じました。やっぱり人生って、いつも楽しいわけじゃない。仕事をしていても、大変だなあと悩んだりするけど、ふと良い瞬間に立ち会えた時、『ああ、やっていて良かった』とか、『これからも頑張ろう』とか思えるんです。本作は、そんな人間の人生を、生々しく描いた作品だと思いました」。
柳楽は、桂人の激しい葛藤や苦悩を、ギラギラした目力で演じ切った。かなり重々しい役どころだけに、「通常は撮影が終わると切り替えられるけど、今回は1~2か月は忘れられなかったです」とのこと。とはいえ、キャリアを重ねるごとに、処世術みたいなものも身についてきたという実感がある。「僕は、わりとこういう役が多いですからね。撮影中はどうしても、その役の気持ちを理解したいと思うし、できるかぎり考えてしまう。大変と言えば大変なんですが、僕はどちらかというと、家に帰ればぱーっと忘れられるタイプだとは思います。そもそも、こういう役を演じる人って根明(ネアカ)なんじゃないかなと。僕、根明なんですよ。もちろん悩むことや考えることはありますが、わりとあっけらかんとしているタイプ。どこかで客観的にいたいとは、常に思っています」。
以前とは、役へのアプローチの仕方も変わってきたそうだ。「やっぱり前と同じことをしていたらマズイし、年々、求められるものも違ってきます。そのなかで巡り会った現場で、魂を込めてやりたいなと思っているんです。もちろん、それが叶っているかどうかは、自分自身わからないですが、努力の仕方を少しずつ見つけている感じはしています。自分のイメージする、自分のなりたい俳優像に近づけるようにね」。
2008年には、「止まない雨」という小説の原案を手掛けた柳楽だが、ものを書くことに興味があるし、将来的には映画監督もしてみたいと言う。「自分で監督と主演というのは、近いうちではなく、40歳手前くらいでやってみたいです。すごくアバウトですが(笑)。本は最近『書いてみなよ』とよく言われますが、まだ、ちょっとわからないですね。そっちに軸足を動かすには、まだ経験上、早すぎます。やりたいと思っていれば、そのうちできるかなとは思っていますが、今の僕は、俳優としてやらなければいけないことが山のようにあるから。1つひとつ、自分のなかで達成していってからやりたいです」。
早々と、世界のスポットライトを浴びた柳楽優弥だが、10年という月日を経た今、さらに先の10年、20年を、しっかりと見据えているようで、実に頼もしい。映画監督や物書きといったクレジットがつくのはまだ先の楽しみにとっておいて、まだまだ俳優として、さらに大きな山を乗り超えていってほしい。【取材・文/山崎伸子】