『楽園追放』ヒロイン・アンジェラをかわいく描くコツとは?水島監督が語る3DCGの未来

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『楽園追放』ヒロイン・アンジェラをかわいく描くコツとは?水島監督が語る3DCGの未来

アニメ制作において、3DCGの進化が目覚ましい。11月15日(土)より上映となる『楽園追放 Expelled from Paradise』は、その最先端にチャレンジしたアニメーション映画だ。水島精二監督にインタビューし、進化に対するアニメ制作の現場の熱、3DCGの未来について語ってもらった。

『機動戦士ガンダム00』の水島精二監督、脚本を『魔法少女まどか☆マギカ』の虚淵玄(ニトロプラス)が務める本作。企画が動き出したのは、およそ5年前。水島監督が参加することになったのが、3年前のことだという。「3DCGでまるまる1本映画を作るというのは、当時ではまだあまりなかったんです。3Dのお人形さんのようなものは当然ありましたが、セルルックという、セルの質感に極力近づけて作品を作るというプランは、本作のプランが出てきたのと同時期に、みんなが企画を立て始めたんだと思うんです。新しいものをやれるのは、非常に面白いと思いましたね」。

さらに「5年前というと、『プリキュア』のエンディングがいいねというくらいの頃で、3年前だと、ちょっとその表現の幅が広がったかなという頃」と述懐。「そう考えると、本作は技術が熟成してきたところで完成できたという。そういう運のよさはあったと思います」。運が良かったというが、アニメの現場においてCGの進化はまさに日進月歩。「先駆けとしてやろうと思っていたのに、その間に『009 RE:CYBORG』(12)ができたり、テレビシリーズで『蒼き鋼のアルペジオ』が放送されちゃったりね。全然、先駆けじゃねえじゃん!って(笑)」。

数々のフル3DCG作品が生まれるなか、追いつけ追い越せとばかりに、技術向上が求められることとなった。アニメーション制作はグラフィニカが担当したが、「これまでサンジゲンがリードしてきたものに、グラフィニカが一歩も二歩もリードする表現に行き着くことができた。これは素晴らしいこと」とアニメCGの草分け的存在のサンジゲンの名前を挙げたが、「でもねライバルであり、協力している関係なんです。セルルックの3DCGに関しては、お互いが技術共有をしながら、全体的なクオリティアップをはかっている真っ最中」と現場の実情を明かす。

「今回でエポックとなることは、顔の表情」と胸を張るように、ヒロイン・アンジェラをはじめ、キャラクターの生き生きとした表情に驚かされる。「これまで、3DCGってどうしてもお人形っぽい質感があって、表情が不自然だと思われていて。それがしょうがないものと思われていたんですよね。でも現場では、『いやいや、もっとセルに近い表現。さらにそのもっと先の独自の表現があるはずだ』と思っていて。ここ数年で、その力、進化が発揮され始めた。サンジゲンもグラフィニカもそうですし、ポリゴンピクチュアズさんだって『シドニアの騎士』という素晴らしいフィルムを作られている。こうやって切磋琢磨することで、3DCGでなければできない、でもセルアニメが好きな人も楽しめる作品というのは、どんどん出てくるんじゃないでしょうか」。

アンジェラの表情の変化が、本作の見どころのひとつとなるが、水島監督は「アンジェラ、かわいいですよね」とニンマリ。かわいいキャラクターを描くコツを聞いてみると、「それは2Dでも3Dでも同じで、“表情”なんです」と話す。「キャラクターの心理がわかるように、いかに表情の流れを作るかが大事で。もともと僕は細かく演出をしたい方で、そのためリアクションも多く、作画に細かい芝居が多いと嫌がられることも(笑)。『このセリフの前に、2、3回表情の変化が必要で、そこからしゃべるようにしたい』ということを細かくやるんです。でもそれって、人間のリアクションとしては当たり前ですから。声のお芝居を引き出すためにも、そういう表情の変化は必要なんです」。

表情の演技を3DCGで実現させたことで、「静と動」を本作の見どころとしてプッシュする。「最初に戦闘シーンがあって、それから日常芝居が続いて、後半の激しい戦闘シーンになる。そのメリハリは本作においての最大の見せ場だと思います。『3DCGだ』と思われないくらいの密度で、表情をきちっと見せたあとで、派手なアクションシーンをてんこ盛りにしていますから」。切磋琢磨するアニメ制作の現場において、より高みを目指して完成させた本作。最後にアニメーションの未来について聞いてみた。

「モデルがあって、立体で存在しているからこそできる表現はもっと増えてくるでしょうね。その先には僕が思いもつかないようなものも生まれてくるかもしれない。でも、今回こうやって3DCGが進化を遂げたことで、2Dアニメも2Dならではの自由さというものが優先されていくように、変化していくと思うんです。例えば、湯浅政明監督の『ピンポン』というアニメがありましたが、あれはすごくよかったし、絶対に手描きでなければできない表現。2Dも3Dもそれぞれによさがあって、お互いがもっと高い位置を目指していけるようになるんじゃないでしょうか」。【取材・文/成田おり枝】

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