【追悼】日本中を駆け巡った高倉健の訃報。代表作で国民的俳優の軌跡を辿る
83歳でこの世を去った名優、高倉健。突然の訃報は瞬く間に列島を駆け巡り、昨日から各メディアで高倉の死を悼む報道が続いている。皮肉なことに、この一連の報道によって高倉健という存在がいかに偉大だったかを再認識している人も多いはずだ。
約60年間に及ぶ俳優人生の中で出演した映画は延べ200本以上。多くを語らず、その唯一無二の存在感で“映画人”としてあり続けた高倉健。今回は、彼の生涯を代表的な出演作とともに振り返ってみたい。
1956年、空手に熱を注ぐ青年を演じた『電光空手打ち』でスクリーンデビューを果たすと、60年代から70年代前半にかけては数々の任侠映画に出演。有名な「網走番外地」シリーズでは、任侠の世界に飛び込んだ男を鋭く演じた。青年が刑務所に収容され脱獄計画に巻き込まれる様子や、脱獄囚となった青年と個性豊かな人々が織り成す人情ドラマが話題を呼び、シリーズは爆発的なヒットを記録。同じく任侠路線の「日本侠客伝」や「昭和残侠伝」シリーズでもインパクトのある演技を披露し、一躍トップスターの座に登りつめる。
70年代後半からは、それまでのイメージを払拭するかように幅広い作品に出演していく。主演作『新幹線大爆破』(75)では、ハリウッド型のパニックサスペンスに挑戦。さらに翌年の『君よ憤怒の河を渉れ』(76)では、無罪の罪を負わされた検事役で新たな境地を開拓した。決め手となったのは第1回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞に輝いた『幸福の黄色いハンカチ』(77)。高倉がひとりの女性をひたむきに愛し続ける主人公を演じ、日本中を温かな感動に包んだ。
高倉の活躍は日本だけにとどまらない。ロバート・アルドリッチ監督の『燃える戦場』(70)で流暢な英語での演技を披露し、シドニー・ポラック監督の『ザ・ヤクザ』(74)では主演に抜擢された。松田優作らとともに出演したリドリー・スコット監督の『ブラック・レイン』(89)でも存在感のある立ち振る舞いを見せ、ハリウッドで名が知られるようになる。日本国外の作品であっても、決してスタイルを崩さず自身のキャラクターを演じ切る高倉の姿勢が、巨匠たちに愛されたのかもしれない。
そして近年の高倉のイメージを決定づけたのが、モントリオール世界映画祭最優秀男優賞を受賞した『鉄道員』(99)。朴訥とした男気のある鉄道員を演じ切り、幅広い年代から絶賛された。2006年には文化功労章、2013年には文化勲章を受章するなど“国民的俳優”として愛され、最後の主演作となった『あなたへ』(12)まで俳優人生をまっとうした。
高倉の死はあまりに突然で、あまりに悲しい別れだった。訃報を受けて、降旗康男監督ら続々とその存在を惜しむ声が寄せられているが、『君よ憤怒の河を渉れ』でタッグを組んだ佐藤純彌監督のコメントが印象深い。「映画がまだ元気だった頃、時代を背負ったスターと共に仕事が出来たことは幸せでした。時の移り変わりは当然のことですが、高倉健さんは決して死なないような気がして、訃報を聞いた時は、ひとつの時代が終わったことを実感しました」。また『動乱』(80)や『海峡』(82)で共演した吉永小百合は、高倉への想いを感謝の言葉で締めくくった。「映画の世界に生きることの素晴らしさを教えていただいた方です。本当にありがとうございました」。
寡黙で、不器用なキャラクターを演じ続けた高倉健。長きにわたり日本映画界を牽引した彼の功績は計り知れない。その生涯は作品とともにこれからも語り継がれることだろう。映画史に名を刻んだ大スターの冥福を心から祈りたい。【トライワークス】
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