大泉洋、樹木希林を「人間国宝の落語家のよう」と表現
笑いと情緒にあふれた演技で、常に観客の心をわしづかみにしてきたエンターテイナーにして人気俳優の大泉洋。『わが母の記』(11)の原田眞人監督による時代劇『駆込み女と駆出し男』(5月16日公開)でも、その持ち味を遺憾なく発揮している。そんな大泉にインタビュー。興味深かった話題は、共演の樹木希林とのマル秘エピソードや、笑いについてのこだわり。
本作は、井上ひさしの時代小説「東慶寺花だより」を原案に、原田監督が時代劇に初挑戦した意欲作。江戸時代の駆込み寺を舞台に、離縁調停人と、ワケあり女たちがいろんな人間模様を繰り広げる。大泉は、御用宿の柏屋に居候する医者見習い兼駆出しの戯作者・中村信次郎役に扮した。
現場では、次から次へと原田監督からセリフを追加されたという大泉。「ものすごい量のカメラを回していたから、当初は4時間以上の尺になるんじゃないかと思っていました。でも、監督は最初から『2時間ちょっとだよ』と言われていて。
実際、完成した映画を見ても、そこまで大きくばっさばっさと切られていた感じじゃないんです。とにかく、非常にテンポ良く見られる。編集の妙ですね。きれいに見せるシーンでは、ものすごく美しい景色を見せてくれるし、速いシーンはたたみかけるように進んでいく。その緩急が非常に気持ち良くて、監督は本当に天才だなと思いました」。
樹木希林は、信次郎の叔母のベテラン離婚調停人・源兵衛役を演じた。ちなみに、原作では男役なのだが、原田監督たっての希望で、樹木がオファーされた。大泉は樹木について「すごいとしか言い様がない。人間国宝を見ているようなものですから」とうなる。「現場では、みなさんそうでしたが、こういう機会は滅多にないということで、希林さんの芝居をずっと見ていました。希林さんは、何を言っても、可笑しみがあるんです。まるで人間国宝の落語を聞いているようなものでした。何を言っても面白い。でも、決めるところはバシっと決めてくるようなお芝居をなさる」。
撮影の合間も、みんなで樹木を囲んで暖を取っていたそうだ。「希林さん、わりとゴシップ系の話が多かったりするんです。『最近、あの人が面白いわね』と言って、モノマネをされたりするんです。これが、やたら似ていて(笑)。でも、大変ブラックな内容なので、言えません」。
NHK連続テレビ小説「まれ」でもコミカルな父親がハマっている大泉だが、『駆込み女と駆出し男』の番宣のバラエティ番組や、舞台挨拶などでも、常にエンターテイナーに徹する姿勢を貫いている。実際に大泉に聞くと「人前に立つからには笑わせたい」とキッパリ言い放つ。
「せっかく来てくれたんだからやっぱり笑って帰ってほしいということだけなんです。僕は、面白いから人前に立てるんだという人でありたい。だから、純粋な役者の方とは少し考え方が違うかもしれないですね(笑)。いつだって『面白かったね、大泉』と言われたいんです」。
大泉は、そう言いながら、東方神起のライブに行った時のことを例に挙げる。「彼らのライブで、トークがすごく面白かったんです。彼らは韓国人なのに、日本語でも笑わせることができていて。だったら、僕が韓国語をしゃべれたら、韓国人を笑わせられるんだと思ったんです。それをマネージャーに言ったら、『え?韓国語を覚えて、韓国映画に出たいという話じゃないんですか?』と聞かれて。なるほどーと思っちゃったんですよね(笑)確かに僕は韓国映画に出るより、韓国人を笑わせたいなぁとまず思ったわけなんですよ(笑)やっぱり根っこにあるのは、ただ人を笑わせたいということなのかなと」。
『駆込み女と駆出し男』でも、よどみないセリフで笑いを取る信次郎から目が離せない。でも、それ以上に、彼の全力投球なひたむきさに呼応するように、戸田恵梨香や満島ひかりなどの共演者も一層光を放つ点が素晴らしいのだ。隅々まで、含蓄のある人間ドラマで、時代劇の新しい風を是非感じ取ってほしい。【取材・文/山崎伸子】