鬼才テリー・ギリアムが語る“ギリアムの悲劇”

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鬼才テリー・ギリアムが語る“ギリアムの悲劇”

『未来世紀ブラジル』(85)や『12モンキーズ』(95)などを手がけた鬼才にして、伝説のコメディグループ「モンティ・パイソン」のメンバーでもあるテリー・ギリアム。最新作『ゼロの未来』(5月16日公開)を引っさげて来日したギリアム監督に話を聞いた。

『ゼロの未来』の舞台は、コンピュータに支配された近未来。毎日、謎の数式の解読に挑んでいる孤独な天才プログラマーが、愛と友情を知り、生きる意味を見出していく物語だ。ギリアム監督は、御年74歳。同じ近未来を描いた『未来世紀ブラジル』を作った当時の自分を彼はこう振り返る。

「今回の世界観はユートピア的な世界にしたよ。2作の大きな差としては、『未来世紀ブラジル』を作った時、僕はまだ若かったけど、いまは夢想家ではなく、気難しいオヤジになってしまったということかもしれない(苦笑)」

主人公のコーエン役を演じるクリストフ・ヴァルツはもちろん、個性的な役柄を演じたマット・デイモンやティルダ・スウィントンなど脇の豪華俳優陣も二つ返事でオファーを快諾したという。

「彼らに共通しているのは、遊び心がある点だ。彼らは常に自分がやったことを繰り返したくない、新しいことをやりたいと思っている。だから一緒に仕事ができてすごく面白かった」

テリー・ギリアムといえば、映画を手がける度に、何かしらトラブルや悲劇に見舞われることが多い。『Dr.パルナサスの鏡』(09)がヒース・レジャーの遺作となったのも記憶に新しいが、実際、ギリアム監督も『それは通称“ギリアムの呪い”として知られている』とうなずく。

「今回も企画を持ってきてくれたプロデューサー(リチャード・D・ザナック)が亡くなったので、彼に捧げている。相変わらず、僕の作品では誰かが1人死ぬんだなと。それに、ブダペストのスタジオの重鎮たちが、みんなマネーロンダリングで投獄されたよ。撮り終わった後だから、僕のせいじゃないけどね」

ドキュメンタリー映画『ロスト・イン・ラマンチャ』(02)でも、製作中の『ドンキホーテを殺した男』が頓挫した顛末が綴られている。いろんな困難に見舞われながらも、映画を作り続けるモチベーションとは何なのだろうか。

「困難を乗り越える楽しさというよりは、ただ、厚顔無恥でわがままで、猪突猛進なだけさ。まあ、映画を作るプロセスは大好きだ。役者、デザイナー、ダンサー、ミュージシャンなど、才能ある方々が集まり、自分がその指揮者になれることがね。とはいえ、僕は映画の作り方なんて何も知らないから、毎回、映画を作りながら学んでいるだけだ」

2014年に30年ぶりに再結成されたモンティ・パイソンについても聞いてみた。

「チケットは47秒で完売だった。ただ、僕自身は、はじめのうちは再結成には反対だったんだ。同じことの繰り返しになるし、すでに有終の美を飾っているからね。でも、実際にやってみたら素晴らしかった。特に観客が最高で、70代から子どもまで、パイソンのファンがたくさん来てくれたよ」

70代とは思えないエネルギッシュなギリアム監督だが、何をしている時がいちばん幸せなのだろうか?

「幸せは、瞬間、瞬間に感じるものだと思う。太陽が照っていたり、友達と良い時間を過ごしたりと、そういう時間なのではないかと。僕の人生はとても惨めなものだけど、そういった瞬間があるから、生きていけるんだと思う」

作務衣を着て、ご機嫌にインタビューに答えてくれたテリー・ギリアム監督。そのパワフルさとおちゃめさに圧倒されたが、これからもバリバリ現役を貫き通し、彼にしか作れない快作を生み続けていってほしい。【取材・文/山崎伸子】

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