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『海街diary』の是枝裕和監督が語る原作の魅力

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『海街diary』の是枝裕和監督が語る原作の魅力

『そして父になる』(13)の是枝裕和監督が、吉田秋生の人気コミックを、綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すずを迎えて映画化した『海街diary』(6月13日公開)。原作コミックにほれ込み、心から望んでメガホンをとったという是枝監督にインタビューし、映画化へのこだわりについて話を聞いた。

鎌倉の古い一軒家に住む、長女・幸(綾瀬はるか)、次女・佳乃(長澤まさみ)、三女・千佳(夏帆)。ある日、15年間疎遠になっていた父の訃報が届き、山形での葬儀に出かけるが、そこで母親違いの妹・すず(広瀬すず)と出会う。4人はその後、共に鎌倉で暮らすことになる。

是枝監督が映画化したいと衝動的に思ったのは、コミック1巻目で、父親の葬儀の後に四姉妹が高台に登って、街を見下ろすシーンを読んだ時だ。「すずが泣き、4人のシルエットが重なって、蝉しぐれが鳴くというシーンが素晴らしくて、やられちゃった。あのシーンはカメラがクレーンアップで、音も含めて、自分のなかで映像ができ上がっていました。これは、絶対に誰かが映画にするぞと。それは嫌だから、自分が手を挙げちゃおうと思いました」。

監督が名乗りを挙げた時点で、映画化権は他者に押えられていたが、紆余曲折を経て、メガホンは是枝監督がとることになった。「原作を読み込んでいたので、それぞれのキャラを頭のなかで動かせるようになっていました。原作ファンには怒られるかもしれないけど『このセリフ、原作にあったかな?』と、混同することもあったくらいです」。

原作者の吉田秋生からは、映画化に関して「お任せします」と全幅の信頼を受けた是枝監督だが、唯一、幸の同僚の看護師アライさんだけは出さないでほしいというリクエストが入った。「それだけは繰り返し言われたので『わかりました』と答えたんです。アライさんは原作にも(画として)出てこない。でも、それを深く考えていくと、この原作は出てこない人間が重要な役割を果たす物語なんだなと改めて思いました。

原作を読み直してみると、父親やすずの母親など、キーになる重要な人物がまったく登場しないんです。みんながその人たちを意識しながら生きているけど、彼らを回想でも出さずに、どう生きている人間に重ねて描いていくか。それは、すごくアクロバティックなことを要求されているんだなと受け止めました」。

『誰も知らない』(04)、『歩いても 歩いても』(08)、『そして父になる』(13)などで、いろんな家族を活写してきた是枝監督。『海街diary』もしかりで、一見いびつな家族構成の4人が、1つの家族になっていくという、いわば“そして家族になる”という物語だ。是枝監督は、家族を見つめ、描写してきたことで、自身の心境に変化などはあったのだろうか?

「家族観が変わったか?とよく聞かれるんですけど、自分に確固とした家族観があったかどうかがよくわからなくて。ただ、自分が父になり、父親が亡くなって15年くらい経つけど、いま、父親を思い返している自分がいるわけです。この年齢の時、父親はこうだったなとか、本当に疎遠だったけど、自分の中で形をちょっと変えてきているわけです。この話は幸とすずの話で、過ぎ去った時間が時と共に自分の中で形を変えていくという話だと思っているので、映画を撮りながら、幸の変化にすごくシンパシーは感じていました」。

インタビュー後、是枝監督がいかに原作を愛し、リスペクトしたうえで映像化したかということが、しみじみと伝わってきた。また、本作には、是枝監督の家族観も隠し味としてきいているのではないかと思った。【取材・文/山崎伸子】

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