是枝裕和監督が語る『海街diary』四姉妹の個性
第68回カンヌ国際映画祭でも世界を沸かせた、綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すずの4ショット。彼女たちが四姉妹を演じた『海街diary』(6月13日公開)を手掛けたのが、原作コミックの大ファンだったという是枝裕和監督だ。是枝監督にインタビューし、本作の綾瀬たちとの撮影秘話を聞いた。
本作は、鎌倉の古い一軒家に住む四姉妹の物語。しっかり者の長女・幸(綾瀬はるか)、酒好きで恋多き次女・佳乃(長澤まさみ)、マイペースな三女・千佳(夏帆)が、15年間疎遠になっていた父の葬儀で、母親違いの妹・すず(広瀬すず)と出会う。4人はその後、共に鎌倉で暮らし始める。
四姉妹を画に収めるのはとても難しかったという是枝監督。「ずっと3対1で進んでいたものが、ある事件の後、初めて4人になるんです。4人を撮るのは難しかったですね。昔のキャサリン・ヘップバーンたちが演じた『若草物語』(33)を観ると、やはり1人を3人が取り囲んで見ているとか、そういう構図で作られていくんです。3人は比較的行けるんだけど、4人をどう配置するかと考えました。面白かったです」。
いまをときめく4人の女優陣を演出した感想についても聞いてみた。「綾瀬さんとは、幸というキャラクターについてけっこう話し合いました。佳乃に反発するのは、彼女の向こうに母親を見ているからだと説明をして、必要以上に家を背負う長女をどう作るかを考えていきました。試行錯誤したけど、これだと決まってからは、一切ぶれない役者なんです。そこはすごく訓練されているというか、どっしりと安定している。演出側としては助かりました」。
長澤は、『奇跡』(11)に続いて組むのは2作目となった。「思ったとおり、非常に運動神経や反射神経が良いんです。対応能力が高い。だから、綾瀬さんと長澤さんは、静と動でした。長澤さんは意外とやる度に違うタイプなので、テイクを重ねるといろんなものが出てくる。2人の掛け合いで進んでいく映画だから、どっちも動くと大変でしょ。2人のバランスはすごく良かったです」。
夏帆については「一番、演出寄りの女優さん」と表現する。「2人に影響されずに、自分の時間を生きている役。中心にいなくても、ちゃんと芝居ができている。お芝居を見ていても、映画女優だなという感じがしました。
今回、何組か3姉妹を取材したんですが、長女と次女は洋服の貸し借りをするけど、3女は趣味が変わっていて借りられないというんです。確実に上2人を見て違う道を行くのが面白い。原作の吉田さんも、その辺をすごくわかっていらして、千佳だけ全然違う服を着ていて、(原作では)髪はアフロでしょ。姉2人の対立に左右されない子がいることで、対立が深まらない。そういう話を彼女にしましたが、非常に3女らしいあり方ができたと思います」。
4人のうち、広瀬のみ、最初から台本を渡さず、その場でセリフを伝えるという演出方法が取られた。これは、是枝監督が、子役から自然体の演技を引き出すためにやってきた方法である。台本を渡してからやる方法と、この方法を両方試した結果、広瀬が後者を選んだと言う。「やってみたら、彼女は両方できたので、すごく懐の深い16歳だと思いました」。
広瀬は、現場でまったく緊張しないタイプだと言う。「普通は、大竹しのぶさんと2人芝居です、セリフもその場で、と言われたらびっくりするじゃないですか。でも、それも全然平気でした。緊張している芝居をしていますが、本人は緊張していないというのがすごい。僕でもしますから(笑)。まあ、他のみんながそれぞれ良かったから、彼女が緊張しなかったというのもあるとは思います」。
1人ひとりが主演を張れる女優陣が4人も揃い、なんとも贅沢なアンサンブルが繰り広げられている『海街diary』。原作の大ファンだった是枝監督は「思いのたけをぶつけてみました」と力強く手応えを口にする。是非、日本映画界を担う四姉妹を、大きなスクリーンでご覧いただきたい。【取材・文/山崎伸子】