『マッドマックス』ミラー監督、衰えないパワーの源は?
アドレナリンが吹き出すような映画がやってくる。約30年ぶりに製作される『マッドマックス』シリーズの第4弾『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(6月20日公開)は、興奮必至の映画に仕上がった。シリーズを通してメガホンをとるのは、鬼才ジョージ・ミラー監督。70歳にしてこれだけマッドな映画を作り上げてしまう、そのパワーの源とは?来日したミラー監督を直撃した。
舞台は砂漠ばかりの荒廃した世界。愛する家族を失った主人公マックスが、支配者との壮絶な戦いに挑む姿を迫力のカーアクションとともに描く。
今や伝説となったシリーズ1作目は、ミラー監督の長編デビュー作だ。医科大学出身という異色の経歴の持ち主だが、「映画は、作りながら学んでいった」とミラー監督。シリーズを通しての「荒廃した近未来」という設定も、「予算が少なかったからね。街中では撮影できなくて。人や車があまり通らないところということで、廃墟をバックにすることになったんだ(笑)」と、わずかな資金を集めるなど予算が潤沢ではない中、知恵を絞った結果だったのだとか。
「映画にすごく興味があったんだけれど、フィルムスクールには通っていないんだ」と自己流で映画を学んだ。「映画というのは、本を読めないような小さな子どもでもわかるものだと思ったんだ。なので、バスター・キートンやハロルド・ロイドのコメディ、西部劇などたくさんの無声映画を見たよ」と、無声映画が一番の映画の教科書となったようだ。その精神が最新作にも込められており、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を「言葉ではなく映像で語られる物語。ビジュアルミュージック」と表現する。
国境や世代を超えて、受け入れられた『マッドマックス』の世界。ミラー監督は「この世界観は寓話的であり、神話的でもある。そしてマックスは、古典的な神話の原型のようなキャラクターだ。本当に普遍的なキャラクターであり、テーマ、ストーリーだと思っている」と世界的に共感を集めた理由について分析。「近未来の話だけれど、『未来に行って、過去を知る』と言えるような、とても原始的な世界だよね。例えば、『七人の侍』がアメリカで『荒野の七人』としてリメイクされたように、国や文化が違っても受け入れられるような世界観が『マッドマックス』にもあったように思う」
最新作の製作には、10年以上の歳月がかかった。「何度も倒れては、また起き上がった」とその過程を振り返るが、驚くのはミラー監督のパワフルな姿勢だ。前3作に劣らない、マッドな作品をつくり上げたパワーの源は?すると「僕は常に好奇心によって引っ張られて生きている。パワーの源は好奇心だよ」とニッコリ。
『ハッピー フィート』(06)や『ベイブ 都会へ行く』(99)などほのぼのとした映画も手がけてきたが、「あのときも、映像技術についてたくさん学んだよ。最初の『マッドマックス』の頃は、フィルムだったから、ラッシュを見るまでには1週間必要だった。今は12台のカメラが同時に撮っているものを、すぐに見ることができる。カメラが小型化しているので、どこにでも置けるしね。そういった新しい技術や経験に、すごくワクワクするんだ」と目を輝かす。
さらに「映画は全身で感じるもの。世界で見る、いろいろなことも僕に影響を与えてくれるよ」とどこまでも好奇心旺盛なミラー監督。「2006年にはインドに行って。ウダイプールにあるレイクパレスホテルに行ったんだ。湖が美しい場所なんだけれど、僕が行ったときには、水がすっかり枯れ果てていて!干上がった湖には象がいて、子どもたちがサッカーをしているんだ。オイルをめぐる戦いというのはよく聞くけれど、ウォーターウォーというものもあるんだと感じた」。この水をめぐるインスピレーションは、最新作にも影響を与えている。
「この先、1000年映画づくりをやったとしても、まだまだ映画のことを熟知することは不可能だと思うよ。技術も観客の見方も常に変わっていくしね」とまだまだミラー監督は、知りたいこと、やりたいことだらけのようだ。最後には、「続編のストーリーはもう考えている。でもまずは、その前に小さい映画をつくりたいね」と満面の笑顔。その果てしない創造意欲は、うれしい限り。まずは『マッドマックス 怒りのデス・ロード』で、そのパワーを体感してほしい!【取材・文/成田おり枝】