釈由美子、女暗殺者役は余命わずかの父が後押し|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
釈由美子、女暗殺者役は余命わずかの父が後押し

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釈由美子、女暗殺者役は余命わずかの父が後押し

釈由美子が、『KIRI―「職業・殺し屋。」外伝―』(6月20日公開)で本格アクションに挑戦。美ボディで放つキレのあるアクションが見どころだが、主人公・キリのまとう寂しげな表情がまた魅力的なのだ。釈を直撃すると、「キリ役は特別な役なんです。そのときの釈由美子が乗り移っている」と告白する。運命的な出会いを果たした役柄には、どのような思いが投影されていたのだろうか。

演じるのは、プロの暗殺者として育てられたキリ役。大切な人を奪われた過去と、妹のように可愛がっているルイ(文音)のため、復讐に燃える孤高のヒロインだ。蹴りやパンチを炸裂させ、ナイフを突き立てる。強い女暗殺者だが、彼女の佇まいからは寂しさや憂い、そして優しさが漂う。「ちょうどオファーをいただいたとき、人生の転機だったんです」と切り出し、「父が末期ガンの宣告をされていて。余命半年と言われていました」と激白。

「昨日まで、一緒に山登りに行ったりとピンピンしていた“父”がです。とても信じられなかった。手術も抗がん剤治療もできないくらい全身に転移していると言われたのですが、絶対に奇跡を起こしたいと。民間療法や免疫療法を探して、あちこち父を連れて行きました。主演映画で、しかもアクション映画なんて、とても受けられる状態ではなかったんです」

しかし、「いつかまた本格アクションをやりたい」という思いから、古武道の黒帯まで取得していた釈にとっては念願のオファーだったことも事実。「ずっとやりたかったアクション。でも父との時間は1分1秒も無駄にしたくない。どうしよう、どうしようと悶々としているときに、父が『俺も戦う。お前も戦ってこい』と背中を押してくれたんです。その言葉で、『わかった』と決意することができました」と、本作への出演を後押ししてくれたのは、他でもない父だったという。

クランクインは、父の入院の日と重なってしまったそう。「それまで歩けたものが、もうまったく動けなくなってしまった。気が気でならなかったのですが、私は一度頑張ると決めたので、作品に入り込もうと思って臨みました。撮影の少しの合間でも、夜中でもお父さんのところに面会に行きました。寝ているときは、その寝顔を見て安心して。起きているときには、アクションでできたアザを見せて、『お父さんも頑張って。早く退院しようね』と励ましていました」。

病と戦う父の存在を感じながら、撮影に打ち込んだ。「キリの孤独や、強さの中に抱えている悲しさや、瞳の奥が潤んでいる感じは、釈由美子が乗り移っているからだと思います。シンクロしてしまっていたんですよね。完成作を見たときには、『ああ、こういう表情をするんだ』と何か人知を超えたものを感じました」

大きな転機となったが、これまでにも「なぜか、厄年に転機を迎えているんです」と彼女。「本厄である32歳のときに婚約破棄をして、36歳で父がガンになって。19歳の厄年では家が火事になって、芸能界デビューをしたのも19歳」と打ち明けるが、悲しい出来事を経験するたびに「強くなっている」と清々しい笑顔を見せる。

「父は口下手で、小さい頃から私のことを褒めてくれたりはしなかったんです。でもそんな父が今回、『お前はよくやった。感謝している』と言ってくれた」と噛み締めながら、「自分の悲しい過去や体験も含めて、それが人生の肥やしになるんだと思って。女優業は若いだけ、人気があるだけでできるものではなくて、その肥やしが芝居や表情にも出てくると思う。ひとつたりとも、無駄な経験はないと思っています」

「容姿が美しいだけではなくて、挫折や苦悩を乗り越えた先に、にじみ出てくる優しさや柔らかさが、本当の女性の美しさ」と、女性の“美しさ”に対する考え方も変わったそう。「だからこそ、アクション映画で女性が主人公になるのにも、それなりの意味があると思っていて。筋骨隆々の男性がアクションをやった方が、もちろんかっこいいし、見栄えもいいはず。でも、圧倒的な強さの中に、はかなさやもろさ、弱さを抱えていて、どこか守ってあげたくなるような深みのあるキャラクターにすることが、女性がアクションをやる意義だと思っています」

残念ながら父は、1月に他界。完成作を見せることはできなかったそうだが、「きっと公開日を天国から楽しみに待っていてくれていると思う」と目を細める。古武道の有段者としての本格アクション。父への思いやこれまでの人生経験が、キリ役として結実。『KIRI―「職業・殺し屋。」外伝―』に刻み込まれた。ぜひ、円熟味を増した釈由美子の“今”を感じてほしい。【取材・文/成田おり枝】

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