吉田羊、三谷幸喜の言葉に支えられて「成長できた」
アニメファンの枠を超えて大ヒットを記録した『劇場版 あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(13)のスタッフが再結集して描く青春群像劇『心が叫びたがってるんだ。』が、9月19日(土)より公開となる。言葉は人を傷つけることもあるが、人を励ますこともできる。そんな普遍の思いを丁寧に綴った本作。主人公の母役としてアニメ声優に初挑戦した女優・吉田羊を直撃し、人生における“大切な言葉”を語ってもらった。
本作は、幼い頃、何気なく発した言葉によって家族がバラバラになってしまった少女・順を中心に、悩みを抱えた高校生たちが心の殻を破ろうと葛藤する青春ストーリー。吉田が演じるのは、順の母親・泉役。言葉をうまく発することができない順をもどかしく思い、心配しながらも辛くあたってしまうという難しい役どころだ。吉田は「未熟な人なんだろうと思います」と役柄を分析する。
泉の複雑な感情を心から理解して役作りに挑んだ。「娘の感情よりも自分の感情を優先させてしまったり、自意識過剰で被害者意識が強かったり。でもきっと、彼女はそのことにちゃんと気づいているんです。順に辛い言葉を投げかけながらも、順が鏡となって、それが自分に返ってきているとわかっている」。さらには、「だからこそ、順の成長を見たときに、泉は思わず涙を流す。それは彼女の母としての気づきであり、彼女自信も一歩踏み出す経験だったんだと思います」と順だけでなく、彼女の成長を通して、泉の変化をも実感したという。
脚本を読んで、「言葉の持つ力を、善悪の両面からきちんと描いた繊細な作品だと思いました。わかり合いたい、理解し合いたいというのは人間にとっての普遍的なテーマ。そういった思いに、勇気や一筋の光をくれると思います」と言葉の持つ力について改めて気づかされた様子だが、吉田にとって、人生における“大切な言葉”はあるだろうか?
「中学生のときに多感な時期を過ごし、クラスメイトとうまくいかなくて家に帰ることがありました。すると、母が必ずそれを感じ取って、『今日、学校どうだった?』と声をかけてくれていて。『こんなことを友達に言われた』と話すと、『それは今、あなたに足りないものが何かを気づかせてくれたのかもしれないよ。傷つけられたと思わずに、言ってくれてありがとうと思ってみたら』と言ってくれたんです。だから、私は今でも人を嫌いになったり、憎むのが苦手なんです。そうやってポジティブに捉えていくことで、被害者意識で毎日を過ごすより何か意味があると考えられるようになった。今の私があるのは、母のおかげです。本当に感謝しています」
また、この世界に入ってからの“大切な言葉”として、三谷幸喜からの言葉を教えてくれた。「昨年、三谷幸喜さんの『国民の映画』という舞台に出させていただいて。2011年の初演から続投させていただいたんですが、昨年の再演の際は、初演のときと違う役をやらせていただいたんです。三谷さんは当て書きで有名な方なので、その役をやる方を想定してセリフを書かれる。私は、初演のときにその方が作り上げた役を見ているわけで。再演で今度は私が演じるとなったとき、やっぱり怖かったし、プレッシャーもありました」
そんな吉田を見て、三谷が「今回の役は羊さんにお願いしたんです。羊さんのための役です」とキッパリと話してくれたそう。「その言葉でふっと楽になって、余計なことを考えずに、丸裸でぶつかるしかないと思えた」と「信頼して任せてくれた人の思いに応えたい」とふっきれた。「だから稽古場ではどんどん三谷さんにぶつかっていって、恥もたくさんかいた。最終的に三谷さんが、『羊さんにしかできない役になっていた、面白かった』と言ってくださって。恥をかきながらも食らいついていって結果を出せたというのは、少しだけ成長して、視野が広がった経験になりました。本当に言葉って力を持っているなと思いましたし、あのときの三谷さんの言葉がなければ、あれだけ頑張れなかったと思います」
快進撃を続ける女優・吉田羊は、たくさんの温かな言葉に支えられて邁進していた。ぜひ、『心が叫びたがってるんだ。』で、言葉の持つ力を感じてみてはいかがだろう。【取材・文/成田おり枝】